コラム

アメリカ外交 ライバル国に甘い「戦略的忍耐」に大転換が、必然の選択だった理由

2021年05月11日(火)19時22分
米バイデン大統領

バイデンはより柔軟な外交に舵を切ったが…… JONATHAN ERNSTーREUTERS

<北朝鮮やイランとの対決色を薄めたバイデンだが、中国の圧力でそうせざるを得なかった側面もある>

バイデン米大統領は就任後100日間で外交政策の路線転換に着手した。イランに対しては、核兵器開発に歯止めをかける核合意の復活を期して交渉再開を模索している。「朝鮮半島の非核化」問題では、トランプ前政権の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」要求に比べ、より対決色の薄い段階的な対北朝鮮政策を採用した。

バイデンは中国の急激な台頭に合わせて米外交の軌道修正を図っている。イランと北朝鮮へのアプローチは一部で「戦略的忍耐」とも評される新外交ドクトリンの典型だ。

バイデンはこれまで、2つの世界秩序の下で人生を送ってきた。まず、1945~89年の冷戦時代。アメリカはソ連に対する「封じ込め」政策を採用し、民主主義と自由市場経済の価値を訴えて世界の覇権をソ連と争った。この戦略は89年のベルリンの壁崩壊とその後のソ連の消滅につながり、アメリカに勝利をもたらした。

第2の時期は、89~2016年。アメリカは世界唯一の超大国として、ルールに基づく自由貿易と民主主義を基盤とした国際政治経済システムを世界中に広めた。89~19年に世界の1人当たり所得は約3倍に増え、民主主義は世界の国々の24%から57%以上に拡大した。

ライバル国とも協力する必要が

しかし、中国が05~20年にGDPを6倍に増やし、同時に軍事力を強化した結果、アメリカの一極支配は終わりを告げた。21世紀に入って初めて、世界秩序の主役を争うライバルがアメリカの前に登場したのだ。

バイデンはこの新たな状況にアメリカの外交ドクトリンを適応させようとしているが、アメリカ1国で新たな世界秩序を形成する時代はもう終わった。もう1人の主役である中国の動向も同じぐらい重要だ。

可能な限り中国やイラン、北朝鮮などのライバル国とも協力する必要がある。時には貿易関係と安全保障上の特定の利害をこれまで以上に分けて考える必要がある。南シナ海の主権や知的財産など、国益上決定的に重要な特定の問題で中国に対抗するため、テーマごとにさまざまな国との同盟関係を模索する......。バイデン流アプローチの主要部分は一見、中国台頭以前に逆戻りしているように見える。

アメリカの同盟関係、民主主義の価値観、経済システムは新しい世界秩序を主導する中国との競争において「永続的な強み」になると、バイデンは主張する。具体的にはクアッド(アメリカ、日本、オーストラリア、インド)のような国際的枠組みの活性化と、日本や韓国などとの2国間同盟の強化を図ることになりそうだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国の証取、優良上場企業のリファイナンス支援 審査

ビジネス

欧州、ユーロの国際的役割拡大に備えを=オーストリア

ワールド

キューバの燃料事情は「危機的」とロシア、米の締め付

ビジネス

ユーロ圏投資家心理、2月は予想上回る改善 25年7
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story