コラム

「冷笑系」はなぜ活動家を嫌うのか

2022年10月25日(火)10時26分

「勉強してから反論しろ」というと、すぐにインテリのおごりだという反応がある。私は学術書を読めと言っているわけではない。私自身もインテリではない。最低限度の知識を仕入れてから何かを言ったりするべきだ、と言っているだけだ。レストランに行くときに全裸で向かう人はいないのと同じように、ある物事を批判したり逆に賛同する場合でも最低限度のドレスコードがある。現在では800円とかで沖縄問題に関する新書を読むことができるのに、それをしないのは怠惰だ、ということだ。本を読みたくなければ沖縄県が公表している基地問題のPDFに目を通すだけでもいい。数分で終わる。しかしそれもしたくない。その知的怠惰が冷笑系を生んでいる。

人々は長い思考が億劫になり、できるだけ単純な意見に飛びつこうとする。「分かりやすさ」を追及してやまない。短い動画、短い結論、短い喋り、短い応答に走っている。文明がこれだけ発達してあらゆる物事が複雑化しているので、そもそも社会を「分かりやすく、端的に、短時間で」理解することなどは不可能である──という前提が共有されていない。しかしこれでは各分野が専門化し蛸壺化していくので、それを平易にするために新聞とか雑誌とか出版とかラジオ・テレビの特集番組といったマスメディアがあるが、それも参照しない。

勉強も思考も億劫な人々

このような人々が行きつく先こそ冷笑系なのである。冷笑系には体系的な知識はいらない。反射的にミスをあげつらって都度叩けばいいのである。それを「論破」などと形容しているだけで、実態はたんなる「Aへの反対」という反射反応である。一見するとこの姿勢は「全てを理解したうえで斜に構えている」とみえなくもないので、「鋭い」とか「クールだ」などと称されるが実は何も知らないだけで中身は無い。人を嘲笑することが唯一出来る方法だからにすぎないのである。

何かを長く考えることがそんなに苦痛なのだろうか。数百円で買うことのできる新書を読むことがそれほど困難なのだろうか。社会を批判したりする行為には最低限度のドレスコードがある、という事実はそれほど受け入れがたい事なのだろうか。そしてこういった行為を実行「しない」で笑うことのいったいどこが「鋭い」ことで「クール」なことなのだろうか。10分程度で読める記事とか2時間で本を読む時間を惜しむ代わりに、その時間を何に使っているのだろうか。私にはよく分からないし、分からないままでいいと思っている。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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