コラム

保守派に見放された菅政権の1年

2021年09月07日(火)17時57分
東京五輪開会式

東京五輪の開会式。天皇陛下の開会宣言の際、菅がすぐに起立しなかったことも保守派の不興を買った Mike Blake-REUTERS

<菅政権の失敗は、「安倍路線の継承」を謳っておきながら、保守派が期待する安倍的イデオロギーを全く踏襲しなかったことだ>

保守派にとってみれば、2020年9月、電撃的な安倍晋三前総理辞任劇から総裁選を経て組閣した菅義偉政権は「安倍政権の正統的後継者」として一挙に期待を集めた。ところがその期待は長くは続かず、いつの間にか保守派は菅政権を見限り、2021年9月3日の菅総理が退陣表明を発する「前」の段階から、高市早苗前総務大臣に一挙に支持が集まり、同退陣表明後は安倍前総理も総裁選に於いて高市氏を支持する流れとあって、現在保守派の支持はほぼ高市総理・総裁待望論で圧倒されている

安倍政権の路線を継承するとして始まった菅政権は、いかにして保守派の期待を集め、また見放されていったのか。1年間の動向を振り返る。

1)菅総理が読み違えた保守派の期待

安倍政権の路線を継承するとして始まった菅政権は、約7年8か月に亘った安倍政権が退陣したことで「安倍ロス」状態となった保守派の期待を一身に受けた。菅政権は安倍政権の金融緩和路線、構造改革路線を踏襲すると謳い、これを政権の目玉とした。しかし保守派の期待する「安倍政権の継承」とは、金融緩和や構造改革というよりも、「安倍政権的な国家観」の継承であった。つまりそれは、靖国神社参拝(歴史観)や中・韓に対する対決的姿勢、所謂左派メディアとの対決姿勢、または強力な憲法改正への熱意であった。菅政権発足の初手の段階で、菅政権が思い描く「安倍路線の継承」と保守派の期待には大きな食い違いがあった。

菅政権発足に併せて文藝春秋から加筆の上で再版された『政治家の覚悟』には、例えば安倍前総理が『美しい国へ』で披瀝した保守的な国家観の発露や憲法改正への熱情は極めて薄く、保守派の歓心を買うるであろう部分は僅かに対北朝鮮(朝鮮総連)政策ぐらいのものであった。強力な保守的世界観を披歴する安倍前総理に対し、菅総理の保守色はかなり減退し、保守派にとってこの内容は「幻滅」に近い内容ですらあった。

しかし菅政権発足直後、保守派が菅を「安倍政権の正統なる継承」と見做す事件が起こった。日本学術会議の推薦する新会員候補6名の任命拒否-所謂「日本学術会議の任命拒否問題」である。学術会議から推薦されたにもかかわらず任命拒否された6人は、所謂「安保関連法」や「特定秘密保護法」に反対姿勢の強いメンバーとされるや、たちまち保守派はこの拒否について諸手を上げて政権側に立ち賛同した。端的に言えばこの拒否問題は、その委細を度外視して、「菅内閣が進歩的価値観を拒否した」とうつり、所謂左派学者や左派メディアとの対決姿勢の前衛として認知された。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ

ビジネス

アングル:日経平均1300円安、背景に3つの潮目変

ワールド

中東情勢深く懸念、エスカレーションにつながる行動強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story