コラム

小西議員の言う通り、参議院の憲法審査会は毎週開く価値がない

2023年04月10日(月)17時35分

国会 Osugi-shutterstock

<「サルがやること」という言い方に問題はあったとしても、毎週開くことの妥当性は実際の議論の内容から改めて検証されるべきだ>

立憲民主党の小西裕之参議院議員が、憲法審査会の毎週開催は「サルがやること」と述べたことで波紋を呼んでいる。言葉の妥当性に関心が向くばかりで、肝心の参議院の憲法審査会の毎週開催についてはほとんど議論がなされていない。そこで筆者は、参議院の憲法審査会に関して、昨年行われた第208回国会~第210国会までの議事録を全て読んでみた。結論としては、参議院の憲法審査会は毎週開催する必要がない、全く内容がない会議だった。

憲法審査会の議論

憲法審査会は、「(1)日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての広範かつ総合的な調査、(2)憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等の審査を行う機関」と位置づけられている。しかし、議事録からみられるのは、殆どの委員は、憲法学の基本的な知見を持っておらず、これまで積み上がってきた憲法をめぐる議論に基づいて法律を論じる能力はないということだ。

たとえば昨年の主な議題のひとつは参議院の選挙制度をめぐる問題だった。参議院は都道府県別に選挙区を設置していたが、一票の格差を解消する目的で、2015年から一部の都道府県を「合区」として選挙を行っている。しかし、参議院議員は地方代表としての性格があり、一都道府県に最低一人の議員を保障すべきであり、これを憲法に書き込むべきだ、とする議論がある。

憲法審査会でもこの議題が論じられるのだが、各々が言いたいことを主張しているだけで、さっぱり議論が進んでいないのだ。たとえば、参議院の選挙制度を一票の格差問題の例外とする改憲に賛成する委員は、日本の地方の惨状を解説し、「合区」は解消しなければならないと述べる。しかしこれは憲法論とは呼べない。

12月7日の会議では、小西洋之委員が、6月8日に行われた会議での参考人の意見を踏まえ、憲法に平等権が原則として書き込まれている以上、一票の格差を無視する制度を憲法に書き込むのは憲法の改正限界の問題があり、「合区」解消は国会改革によって行われるべきではないかという指摘をしているが、そのような憲法上の問題を克服するための具体的な議論は改憲派委員からは全く出てこないし、参考人の意見などなかったかのようにゼロから議論がスタートしてしまう。

それどころか、同じ12月7日の会議で山谷えり子委員は、参議院の選挙制度改革がテーマの会議にも拘らず、ウクライナ戦争に触れながら憲法九条の問題について演説し、主題である選挙制度の話題には全く触れなかった。これには同僚の自民党議員からも苦言を呈されたが、憲法審査会を自分の独演会の場と勘違いしている議員もいるようなのだ。

具体的な憲法論が行われない

そのような独演会の場と化しているのが、第208回国会と第210回国会でそれぞれ一回ずつ行われた「憲法に対する考え方について意見の交換」だ。この会議では文字通りそれぞれの委員がそれぞれの「考え方」を述べるばかりで、議論の場にはなっていない。それぞれの委員が語っている内容も、先述の「合区」問題を初め、自衛隊、緊急事態、デジタル化、憲法裁判所、道州制など、自分が思いついたこと、あるいは自分の党の政策をただアピールしているだけ、といった様相となっている。中には憲法に日本の伝統を書き込もうとする西田昌司委員のように、近代憲法の根本を理解していない意見を述べる委員もいる。

また、「日本国憲法は制定以来改正されていないのだから改正されなければならない」「憲法の時代に合わせたアップデートを行わなければならない」など、憲法審査会という専門的な機関で述べるにそぐわない抽象的な意見を述べる委員も多い。これが、憲法審査会が設置された初めての会議で出てくる意見なら、まだ理解することはできる。しかし各国会の会期ごとに、これまでの議論がリセットされたかのような意見交換を繰り返す意味はあるのだろうか。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story