コラム

操られる岸田「決断不能」政権の危うさ

2022年08月24日(水)13時42分

その論理的帰結として岸田政権は、旧統一協会問題だけでなく、あらゆる政策課題に対して決断不能に陥る。決断するには調整すべき利権団体があまりにも多すぎるからである。たとえば新型コロナウイルス第七波の対策を何もしなかった結果、日本は世界一のコロナ感染国になってしまった。医療関係者は日々苦境を訴えている。にもかかわらず、岸田政権は旅行や飲食業を筆頭とするビジネス業界に配慮して、蔓延防止対策並みの緩い行動制限ですら発動できないでいる。

また円安などを理由とする物価の上昇に対しても依然として具体的な対策を行えていない。参院選後の臨時国会は3日で閉じられ、憲法53条を根拠とする野党の国会開催要求も無視し続けている。岸田政権がこの間、迅速かつ独断的に行ったのは、安倍元首相の国葬を決定したことのみだった。

自民党政権の決断不能性は構造的

自民党政権が国家の重要課題に対して無能力を示してきたのは今に始まったことではない。それは安倍政権から続く構造的なものなのだ。筆者はかつて別の媒体で、その決断能力の無さを指摘したことがある(部分的には「無能な独裁者・安倍晋三による「法の停止」と「遅延する力」」『日本を壊した安倍政権』扶桑社、2020年、を参照)。

たとえば少子化対策は日本国の根本的な課題だが、安倍政権は旧弊な家族観を支持する党内右派勢力(ここに旧統一協会が含まれるのは周知の通りだ)の顔色を伺った結果、時代に合わせた子育て支援を決断できなかった。新型コロナ対策にしても、初期のロックダウンこそ迅速だったとしても、様々な業界団体の顔色を伺った結果、その後の緊急事態宣言の発令は、安倍、菅政権ともに中途半端なものだった。

選挙もなく、国会で圧倒的議席を有する政権の、さしたる競争相手もいない首相は、まさに実質的に独裁的権力の所有者だといえる。しかし独裁者となるにも才覚が必要なのだ。それを持たない権力者は、あらゆる利権団体の駒として、決断不能のまま使い倒されるだけだ。

しかしもちろん、有能な独裁者だろうと、利権団体の板挟みで決断不能になった独裁者だろうと、一般の生活者にとっては災いの種でしかない。野党にはこれまで以上の権力の監視とチェックが求められるが、それだけではなく、様々な課題を曖昧にしたまま数ヶ月で忘却しないことが必要だ。これまで政権のガバナンスを疑わせる問題だけでも、行政が歪められた可能性が高い森友や加計の問題、桜を見る会の便宜供与、統計不正問題などがあった。このような問題について、自民党政府は資料の改竄、隠蔽、破棄による引き伸ばし作戦を行い、逃げのびようとしてきた。こうした問題も含め、政権の問題に関して、解決されない限り執拗に記憶に留め続けて権力にまともな仕事をさせる、報道や世論の力が求められている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ヒズボラ指導者、イスラエルへの報復攻撃を示唆 司令

ワールド

「オートペン」使用のバイデン氏大統領令、全て無効に

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で7月以来最大下落 利下げ

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 航
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story