- HOME
- コラム
- 現代ニホン主義の精神史的状況
- ロシアの脅威が生んだ「強いドイツ」問題
ロシアの脅威が生んだ「強いドイツ」問題
そもそも地域安全保障にドイツが積極的に貢献することのメリットは特にない。ドイツは現在では様々な国に海外派兵しているが、かつては国内の政治コストも高かった。コソヴォ空爆への参加をめぐっては政権与党SPD(社会民主党)の分裂を招き、左翼党の結成につながった。EUに関しては財布の紐を握っている限り影響力が衰えることはない。徴兵制は西ドイツ時代から一貫して維持しており、繰り返し廃止論が持ち上がっても廃止できなかった。だがそれは軍事力確保のためというよりも兵役を拒否した者に兵役の代わりに義務付けられる介護などの福祉業務がドイツの社会保障システムを支えているからだ。、財政再建路線もあって連邦軍の人員は削減されてきた。それだけに、今回の方針転換は、統一後ドイツの歴史を変える変化だったと言われているのだ。
軍事大国ドイツを受け入れられるのか?
しかしドイツが軍事面での大国となることは、ヨーロッパに新たな緊張の火種を持ち込むかもしれない。ロシアとウクライナの問題が何らかのかたちで解決することになったとき、あるいはロシアで現在の権威主義的な体制が自由主義的な体制へと変革したとき、果たしてヨーロッパは安全保障に関してタカ派的なドイツをそのまま受け入れることができるだろうか。
先述したように、ドイツが安全保障政策に控えめだったのは、経済を優先するためだけではなく、欧州諸国の警戒感に配慮した結果でもあった。ドイツの歴史政策は成功している一方で、「AfD(自由のための選択肢)」のような10年前にはなかった極右政党も議会には進出してきている。EUの安定を支えてきたのは、フランスとドイツの蜜月関係だったと解釈されており、今回のドイツの方針転換についてもマクロン大統領は支持している。しかしドイツが今後、本当に軍事大国化した場合、フランスはまたドイツを警戒するようになるのではないか。また、現在ドイツの尻を叩いている東欧諸国も、軍事的なプレゼンスが増大したドイツを信用し続けることができるだろうか。
ウクライナ戦争に関してドイツに向けられている批判と期待は、ロシアという「強い国家」に対してドイツという別の「強い国家」をぶつけたい、という国際社会の欲求に基づいている。しかし「強い国家」が乱立し、互いにけん制し合うという国際秩序は、二度の大戦の引き金にもなった。ロシア軍の虐殺が報じられる中で防衛力強化を感情的に選択してしまう流れは不可逆的なのかもしれないが、戦争後の国際協調の仕組みも同時に考えておく必要があるだろう。
岸田から次期総裁への置き土産「憲法改正」は総選挙に向けた「裏金問題」隠しか 2024.09.11
人道支援団体を根拠なく攻撃してなぜか儲かる「誹謗中傷ビジネス」 2024.07.29
都知事選、蓮舫候補の「二重国籍」問題の事実関係を改めて検証する 2024.06.20
政治資金改革を時間稼ぎの「政局的な話」としか考えていない自民党 2024.05.17
「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令 2024.04.23
『オッペンハイマー』:被爆者イメージと向き合えなかった「加害者」 2024.04.11
日本で車椅子利用者バッシングや悪質クレーマー呼ばわりがなくならない理由 2024.03.27