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武蔵野市の住民投票条例で噴出した外国人投票権「陰謀論」
新潟県見附市の織物工場で働くベトナム人技能実習生(2019年)。コロナ後は技能人実習生の多くが解雇され帰国もできず行方不明になっている Linda Sieg-REUTERS
<住民投票に外国人の投票権を認めると、某国から移民が押し寄せて市が乗っ取られる、というあり得ない妄想より、外国人増加の実態を否定し続けた結果の分断の弊害を考えよ>
武蔵野市議会で「武蔵野市住民投票条例」が審議されている。ところが、この条例が現在、猛烈な反対運動に晒されている。条例案に3ヶ月以上市内に居住する18歳以上の外国籍住民も住民投票に投票権を与えると定められていたことが、その理由だ。市の内外から反対派が市役所や吉祥寺駅前に集結し、デモ行進が行われるなど激しい示威活動が続けられている。条例の採決は21日の本会議で行われる見込みだが、その成否は予断を許さない。
住民投票での外国人投票権は珍しくはない
住民投票で外国人の投票権を認めている自治体は、全国で40以上存在する。その多くは永住権獲得が条件だが、武蔵野市の条例案のように比較的短期間の居住で投票権が認められている自治体も、大阪府豊中市、神奈川県逗子市という先例がある。もし武蔵野市で可決されれば3例目、都内では初となる。
外国人参政権に関する議論は国政から地方自治まで様々なレベルで存在するが、最高裁は地方自治体の参政権に関しては憲法上否定していない。自治体の住民投票条例で外国籍住民に投票権を与えることはトレンドとなりつつある。
その理由の一つは、自治体の住民投票条例には法的拘束力がなく、首長や議会はそれをあくまで「尊重する義務」があるだけだからだろう。大阪維新のように、二度の住民投票での否決を無視してなお都構想の実現を行おうとする政治勢力もある。武蔵野市も、この投票権は参政権ではなく、あくまで条例についての住民の意思表示であるという立場だ。
地方自治は「民主主義の学校」とも呼ばれるように、より身近で具体的な生活の問題が扱われることが多い。そして地域の生活者に日本人も外国人もない。それぞれが協力して生活の質を向上させていかなければならないところ、外国籍の住民にのみ意思表示の権利を与えなくてよいということにはならない。
反対運動の中にみられる陰謀論
武蔵野市の条例案については、国会議員も含め市内外からの反対も多い。たとえ住民投票レベルであれ、外国人参政権に関する抵抗感は根強くある。その抵抗感が陰謀論にまで達してしまっている場合もある。典型的な陰謀論的反応としては、ある特定の国が大量の移民を武蔵野市に対して送り込み、市を乗っ取るのではないか、というものがある。
少し考えてみれば、これがどれだけ非合理的な思考かが分かるはずだ。武蔵野市を乗っ取るためには、少なくとも数万人の成人を送り込まなくてはならない。また、少なくとも3ヶ月は市の住民でいられるような在留資格および生活資金を人数分準備しなければならない。しかもそこまでやって出来ることは、法的強制力をもたない住民投票での意見表明なのだ。
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