コラム

本性を現した岸田政権

2021年11月15日(月)14時17分

また現金とは異なり、クーポンにはその作成や引き換えにコストがかかる。その分を民間企業に委託するとなれば、経済対策に使えたはずの税金が、「中抜き」されることになる。そこに所得制限を設けたことによる申請のための書類作成やその審査へのコストもプラスされる。シンプルに現金を配ればよいところを、わざわざ複雑化することで無駄な行政コストを生み出し、それを「中抜き」させるのは、もはや自公政権の様式美となっている。

継続する「古い自民党」

岸田政権は「新しい自民党」を訴えて総裁選、総選挙に勝利した。しかし、本当に自民党は新しくなったのだろうか。筆者は9月の記事で、岸田自民党はこれまでの自民党と変わらないのではないか、いう懸念を示した。この10万円給付案に関するプロセスは、残念ながらこれまでの自民党と同じということなるだろう。

岸田首相は、緊急経済対策として18才以下への給付金だけでなく、持続化給付金に類似する中小企業支援や、非正規労働者など困窮者対策も打ち出している。しかし、中小企業支援については申請可能な基準が低くなる一方で、持続化給付金では不正受給が横行したという理由で、審査は厳しくなる。現在の支援金の審査基準でも、何回も書類を出し直しさせられるなどの事例が相次いでおり、中小企業にとって申請は大きな負担となっている。2021年は、特に首都圏は一年を通して緊急事態宣言下にあり、事業者は追い込まれている。第六波でまた緊急事態になるこういうときには厳格な審査ではなくたとえばドイツのように、オンライン申請から3日で給付金が振り込まれるような中小企業支援が求められているのではないだろうか。

また非正規労働者などの困窮者対策についても、住民税非課税世帯を対象とするとしており、極めて限られた支援となっている。昨年春、住民税非課税世帯への30万円給付を行おうとした安倍政権は批判を受け、一律10万円の給付に切り替わったことは記憶に新しい。申請主義や限定的な困窮者対策など実態と合っていない対策は、これまでの自民党政策を踏襲しているのだ。

新自由主義も復活

岸田首相は、選挙前に「成長戦略会議」を廃止し、新自由主義からの脱却姿勢を示した。しかし選挙後、新たに設置するとしていた「デジタル田園都市国家構想実現会議」には、「成長戦略会議」の元メンバーであり、新自由主義改革を象徴する人物である竹中平蔵など新自由主義を志向するメンバーが名を連ねている。これでは名前だけ変えた「成長戦略会議」に他ならない。「デジタル田園都市」は「成長の果実を分配」するはずだったが、これまでと同じ「身内」企業に税金を「分配」する利益誘導のシステムと化すだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

リトアニアが緊急事態宣言、ベラルーシの気球密輸が安

ワールド

タイとカンボジア、国境沿いで衝突拡大 停戦維持が不

ビジネス

ドイツ輸出、10月は米・中向け大幅減 対EU増加で

ワールド

米軍、重要鉱物の国内精製施設開発へ 中国依存からの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story