コラム

岸田新政権は「古い自民党」にしか見えない

2021年10月05日(火)14時25分
岸田文雄首相

首相就任後初めての記者会見に臨む岸田(10月4日) Toru Hanai/REUTERS

<9月29日に行われた自民党総裁選の結果、岸田文雄元外相が総裁となり、10月4日の臨時国会で第100代総理大臣に就任した。岸田新首相は「新しい自民党」をつくると述べたが>

総裁選にあたって、岸田候補は目下のライバルであった河野太郎候補に勝利するために、安倍晋三元首相が熱烈に支援する高市早苗陣営など様々な派閥の協力を得た。その結果、出来上がった人事は、各派閥に配慮した論功行賞人事だった。幹事長には安倍元首相に近い甘利明、政調会長に高市早苗。総務会長の福田達夫は比較的若手だが、いちはやく岸田支持を表明し、若手議員の河野支持を牽制したという「功績」がある。財務大臣を長らく務めてきた麻生太郎はほぼ名誉職に近い自民党副総裁となったが、後任の財相は麻生氏の義弟である鈴木俊一に決まった。

岸田総裁は「全員野球」という言葉も使っており、そうであるならば各派閥からまんべんなく人材を得ることは不思議ではないのかもしれない。しかし、岸田総裁に次ぐ票を得た河野太郎は党の広報宣伝部長となり、安倍・菅内閣で大臣を歴任してきた人物が就くポストとしては軽い。また、今回の総裁選には出馬しなかったものの、世論調査では人気があり、今回は河野候補を支援していた石破茂の名前は今のところない。従って、この人事は「全員野球」と呼ぶことはできず、やはり支持の見返りにポストを与える旧来の自民党政治の論理で行われた人事だといえよう。

「政治とカネ」は不問

内閣の人事では、初入閣組の多さが目立った。ただし顔触れは地味だ。もちろん、おかしなポピュリズムに走られるよりは、たとえ地味でも実務重視な人が選ばれたほうがよいだろう。しかしこの顔ぶれが実務重視かどうかは未知数で、高齢の議員もおり、「入閣待機組」を一掃させた、あるいは来る総選挙で当落線上の議員を集めたという見方も可能だ。

確かに安倍元首相の推した高市候補は敗れた。しかし出来上がった人事をみると、明らかに「安倍カラー」が強い政権になることは間違いない。「新しい自民党」どころか、安倍政権の復活に他ならない。しかも甘利幹事長や小渕優子組織運動本部長など、「政治とカネ」の問題によってフェードアウトしていった政治家が、何の説明責任も取らぬまま、何食わぬ顔で復権してしまっているのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story