コラム

自宅療養で人々を見殺しにすると決めた菅首相

2021年08月04日(水)13時35分

どの国がどのようなタイプに分類されるかという点については、コロナの威力は地域差も大きいので、それぞれ当てはめていくのは難しいかもしれない。しかし、日本と同じアジア太平洋地域にあり、条件がほぼ似通っていると考えられる台湾やニュージーランドは、ロックダウンと大規模PCR検査によって、感染者数が増えるのを抑えている。こうした国々は、とりあえずは「積極的に生かす権力」の面を行使しているといえよう。

一方、日本では、PCR検査については増やす気がなく、その政権を擁護するため、検査抑制輪という他国には存在しない集団が現れている。東京での感染者数の増加によって陽性率は急激にあがり、感染人数の拡大に検査が追いつかなくなる可能性も示唆されている。  

ところが、オリンピック選手村では毎日のようにPCR検査が行われているのだ。政府も本音では、検査の重要性に気が付いていた。しかしそれを市民に対してやる気がなかっただけなのだ。日本政府が強いコロナ措置を行わないのは、現在の日本の権力が「消極的に殺す権力」あるいは「死ぬがままにしておく権力」だからなのだ。

市民をナメている日本政府

では、日本政府はなぜ市民を助ける気がないのか。それは日本政府が市民を恐れていないからだ。彼らが恐れているのは利権関係でズブズブな大企業、業界団体であり、だからその癒着のもとで、GoTo やオリンピックなど、コロナそっちのけて自分たちの利益追求に走ることになる。

菅政権がこれまで様々な問題に対してひどいコメントをし続けてきたことはよく知られている。それらは互いに矛盾したものも多い。たとえばオリンピックについては、日本政府には開催するかどうかを決める権限がないといいながら、最近では「やめるのは簡単だ。しかし......」と言い出している。

ワクチンが夏に足りなくなることが事前にわかっていたにもかかわらず、職域接種で大企業や癒着企業の接種を優先させたワクチン担当大臣もそうだ。ワクチンが足りなくなったことで、自治体や企業は予約を停止するなどの対応を余儀なくされている。ワクチン不足が原因で予定を変更しなければならなくなった組織に大学があるが、8月3日、萩生田文科大臣は、大学に対して夏休みまでにワクチン接種を終えるよう要請した。ワクチン不足で打ちたくても打てない大学が多い状況を知ったうえでの発言なのだろうか。

菅首相は、今年春に65歳以上の高齢者に対するワクチン接種を7月末までに完了すると言明した。この約束は、実質的にはそれによってオリンピック開催に賛成させようという意図をもっていた。しかし内閣官房の集計によれば、7月までに2回目のワクチンを打ったのは該当者の75%であり、ワクチン忌避者や報告遅れを考慮したとしても完了とは到底呼べない。65歳以上のワクチン予約を公然と8月以降に受け付けている自治体も多い。にもかかわらず、首相は「達成」と述べた。一瞬で嘘だとわかる嘘を公然とついているのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story