コラム

自宅療養で人々を見殺しにすると決めた菅首相

2021年08月04日(水)13時35分
菅首相

東京五輪さなかのコロナ感染拡大について記者会見を行った菅首相(7月30日) Issei Kato- REUTERS

<菅政権は全力で国民の生命を救おうとはしていない。何もしなくても「政権は安泰」と高を括っているからだ>

8月2日、政府は新型コロナウイルスで、「中等症」であっても「症状が軽い」あるいは「重症化リスクの少ない」患者に関しては、「自宅療養」を可とする方針を出した。これまでは原則的にコロナ患者は入院、無症状や軽症の場合は宿泊施設に入るという方針で進めていたが、その方針を転換したかたちだ。

 オリンピックの開会式を含む7月の4連休以降、日本全体に渡って新型コロナウイルスの急増がみられ、特に東京では一日4000人を越える感染者が出ている。すでに小池百合子都知事は比較的軽症の独身者に対して「自宅を病床のようなかたちで」と「自宅療養」を勧めていた。また、今年春に大阪で感染者が急増した際、入院もホテルなどの施設に入ることもできず、自宅でほぼ放置された患者が続出した。大阪の死者数の多さは、それが一因だと言われている。現在の東京でも、コロナの症状が出ても、どこに電話しても対応してくれない、などといった状況が既に生まれている。これは医療崩壊である。

棄民政策としての日本のコロナ対策

厳しいロックダウン、行動制限によって感染者の増加を止めようとしてきた他の国々と比べて、日本のコロナ政策は緩いといわれる。この理由を日本政府の権力の弱さによるものだとして、市民の自由が尊重されていることを評価する者もいる。あるいはより厳しい措置を求めて、憲法の改正にこぎつけようとする者もいる。

 しかしそれほど人権を尊重しているなら、市民の生命・健康に関心を払うのを放棄するかのような、このような「自宅療養」への方針転換は行えないはずではないか。コロナ禍は既に1年以上続いている。ワクチンだけではデルタ株を防げないことも以前から分かっていた。それにも拘らず、オリンピックは強行された。ここにきての感染者増加、医療崩壊は、想定外では済まされない。感染者が増えたから「自宅療養」というのは、何もしないと言っているだけなので、対策とは呼べない。強いていうなら棄民政策に等しい。

人々が死んでいくのを放置する日本政府

 私たちは一般に、人々に対して積極的に働きかけていく政府をみると、この政府の権力は強いと思う。しかし、積極的な行動は権力の一つの側面でしかない。強い権力は、人々に対して積極的にアプローチするか、消極的にアプローチするかを選ぶことができる。ここで、そのアプローチが生かすためのものなのか、殺すためのものなのかで分類すると。権力を4つのタイプに分類することができる。積極的に生かす権力、積極的に殺す権力、消極的に生かす権力、消極的に殺す権力。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易収支3月は5441億円の黒字、財務省「駆け込み

ビジネス

米関税政策は日本経済を下押し、動向注視していく=植

ビジネス

フィッチ、世界成長予想引き下げ コロナ禍除き16年

ワールド

米下院の民主党議員50人弱、DOGEのAIシステム
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 10
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story