コラム

選択的夫婦別姓を認められない日本の何が問題か

2021年07月02日(金)11時50分
性差別撤廃を求める東京のデモ

日本はいつまでも女性の力を活かせないまま(3月8日、性差別撤廃を求める東京のデモ) Issei Kato-REUTERS

<懐古趣味の保守派が他人の選択にまで反対し続ければ、少子化や介護など新しい家族の形を求める現実のニーズに追いつけないまま社会は疲弊する>

6月23日、夫婦別姓を認めない民法750条は婚姻の自由を定めた憲法に違反するとして青野慶久「サイボウズ」社長らが原告となって国に賠償を求めた憲法訴訟で、最高裁大法廷は2015年と同様、民法750条に対して合憲判断を下し、最高裁判所第1小法廷は24日に原告の上告を退けた。最高裁は、いつまでこの腰が重い態度を貫けるのか。家族のあり方は、まさにどんどん変わろうとしているのに、選択的夫婦別姓すら導入できないのはなぜなのか。批判が集まるのは当然だ。

今回の判決は2015年の最高裁判決を踏襲している。2015年判決には、夫婦同姓制の合理性として、「家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能」「嫡出子であることを示すため」「家族を構成する個人が,同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感すること」など、およそ非合理的な偏見ともいうべき価値観が盛り込まれていた。「嫡出子であることを示すため」という理由に至っては、言外に嫡出子の特権性を認めており、婚外子差別解消の動きに逆行する言明であるともいえる。もちろん判決の趣旨は、婚姻制度をどうするかは立法府に委ねるというものだとしても、司法府の側が具体的な例示において完全なる差別偏見に理解を示してしまったのは、極めて問題だといえるだろう。

四半世紀も前進なし

夫婦別姓制度は、1996年法制審議会の最終答申以来、およそ四半世紀に渡って国会で議論が続けられてきている。

選択的夫婦別姓制度の実現に最も近づいたのは、2009年に誕生した民主党政権だった。マニフェストの一つに組み込まれていた夫婦別姓制度は、福島瑞穂社民党党首の入閣もあり、近い将来立法されるだろうと考えられていた。しかし社民党と同じく連立パートナーだった国民新党の亀井静香金融大臣の強固な反対により、閣議決定することができなかったのだった。

選択的夫婦別姓制度の導入にずっと抵抗してきたのは、主に自民党であった。しかし2020年になって、橋本聖子男女共同参画相を中心に夫婦別姓を推進する議員が法制化に向けた動きを始めた。これについては野党議員も好印象であり、制度の実現に向けて前進したかにみえた。ところが党内保守勢力の頑健な抵抗にあい、第5次男女共同参画基本計画案では、「夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、家族の一体感、子どもへの影響も考慮」という、むしろ時代に逆行するような文言が盛り込まれた。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story