コラム

五輪開催の是非、コロナ分科会に諮問しない ── 安倍政権以来の悪弊続く

2021年06月07日(月)06時10分
東京五輪の輪

東京オリンピック・パラリンピック開幕まであと50日(6月3日、お台場) Issei Kato-REUTERS

<憲法学者の大半が違憲と言ったのに強行採決された安保法案、菅政権発足直後の学術会議への人事介入など、科学的知見を無視し続ける為政者を許容してはならない>

6月2日、衆議院の厚生労働委員会で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が、東京オリンピックの開催について「今の状況で普通はない」と発言した。その上で尾身会長は「やるということなら、開催規模をできるだけ小さくし、管理体制をできるだけ強化するのが主催する人の義務だ」「こういう状況の中でいったい何のためにやるのか目的が明らかになっていない」などと発言した。東京のいくつかの会場で予定されている五輪のパブリックビューイングについても、否定的な考えを示した。

尾身会長は、オリンピックを中止すべきだとはっきり主張したわけではない。しかし2日の発言は、これまでの発言と比べて、オリンピック開催問題について、より踏み込んだコメントだとみられている。

与党政府関係者は、この発言に強い不快感を示している。田村厚生労働大臣は、この発言を「自主的なご研究のご成果の発表」だったと述べ、分科会からの正式な提言として認めない姿勢を示した。

少しずつ自己主張を始めた分科会

昨年の尾身会長は、全体的に政府の方針に忖度するような態度が目立っていた。例えば政府が推進するGoToキャンペーンに対しては2020年7月、「旅行自体に問題はない」などとコメントし、追認する姿勢を見せていた。

しかし、昨年末頃からは、GoToの見直しを主張するなど少しずつ自己主張を始めだしている。5月には、感染が拡大する北海道に緊急事態宣言を出すことに消極的な政府に対して、分科会は緊急事態宣言を提言し、実施されることになった。

遅きに失したと言わねばならないが、ここにきてコロナ分科会および尾身会長は、少しずつ専門家として自立的な発言をするようになっている。報道によれば、分科会の中では、尾身発言よりもさらに強く、オリンピック開催に否定的な声も出始めているという。

科学的知見を邪魔にする政府

コロナ分科会の自己主張が強くなっていくにつれて、政府は分科会を軽視し始めるようになった。前述の田村厚労相の「自主的なご研究のご成果の発表」発言は典型的だ。分科会長の立場で国会において発言した内容が、「自主的なご研究」のそれであるわけがない。

また丸川五輪担当相は、同発言を受けて「私はスポーツの持つ力を信じてきた」と、全く返答になっていない精神論で返した。科学的知見などどうでもよく、専門家会議は常に政府を忖度して提言を行うべきだと、この国の政権担当者たちは思っているのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:FRB、次の利下げは「パウエル後」か 市

ワールド

キューバに石油供給する国に関税発動へ、トランプ氏が

ワールド

米国防長官、2月のNATO会議欠席の見通し=情報筋

ワールド

最近のウォン安、ファンダメンタルズと合致せず=米財
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story