コラム

ドイツも苦しむ極右監視と人権のジレンマ

2021年03月09日(火)16時04分
ドイツ 極右 AfD 翼 ヘッケ

独極右AfDのなかでも過激な指導者といわれるヘッケ(2020年5月)Hannibal Hanschke-REUTERS

<国内情報機関の連邦憲法擁護庁は極右AfDを監視対象としたが、裁判所に監視を差し止められた。逆にAfDに勢いをつけてしまった可能性もある>

ドイツの政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、連邦憲法擁護庁の監視対象となったことが3月3日わかった。憲法擁護庁は反憲法活動を監視する国内情報機関で、ネオナチや極左活動、近年ではイスラム過激派などを主なターゲットとしている。監視対象には盗聴などを含めた調査が可能になる。AfDの党全体が連邦レベルでの監視対象となったのは、今回が初めてだ。

AfDはテューリンゲン州など3州で既に監視対象となっている。また2019年初めには、党内極右組織「翼」が連邦レベルでの監視対象となった。それに対してAfDは2020年4月に「翼」を解散させるなどの対応を行なった。現在の共同党首の一人イェルク・モイテンは比較的穏健派であり、党のイメージ改善に努めてきた。しかし党の極右化は改善されていないと当局によって判断された結果、憲法擁護庁は今回の措置に至ったとみられている。

連邦憲法擁護庁と「戦う民主主義」

連邦憲法擁護庁は、反憲法的団体を監視するために、西ドイツ時代の1950年に設立された。リベラル民主主義国家にとって、言論の自由や結社の自由は、最優先で擁護されるべき核心的な価値だ。

しかしかつてのナチスのように、憲法(ドイツ連邦共和国基本法)が掲げる民主主義や人権の尊重そのものを憎悪し、破壊しようとする勢力の、憲法的価値を毀損する言論や政党活動についてはどのように対応すればよいのか。ドイツの基本法は、18条や21条でそうした勢力と徹底的に対決する方針を明確化した。これを「戦う民主主義」と呼ぶ。カール・レーヴェンシュタインの憲法理論が基になっている。

AfDに結集した「新右翼」

2013年に結成されたAfDは、当初は反ユーロ勢力を結成した政党であり、ユーロ危機などを背景に支持を集めた。創設者たるベルント・ルッケは経済学者であり、2014年の各種選挙ではEU離脱やマルク復活と新自由主義的な経済政策を中心に戦っていた。同じく新自由主義的な政党である自由民主党(FDP)はAfDに票を奪われ、壊滅的な打撃を受けるほどであった。

しかし、その後AfDでは排外主義的な極右勢力が台頭し、創設者ルッケは党を追われることになる。AfDに集った極右勢力は、「新右翼」という名で知られている。2019年に訳書が出たフォルカー・ヴァイス『ドイツの新右翼』(長谷川晴生訳、新泉社)によると、この「新右翼」の人々の思想的ルーツは、ヴァイマル共和国時代の非ナチス的な右翼にある。ヴァイマル時代の非ナチス的右翼は、「保守革命」グループとも呼ばれることがあるが、これを定義したのが、やはり「新右翼」に繋がる人脈の一人である思想史家アルミン・モーラーであった。つまり、ナチスを公然と支持できないドイツにあって、ナチスではない右翼思想に自分たちの正統性の根源を求めたのが「新右翼」なのだ。しかしヴァイスは、こうした「新右翼」グループの主張は、結局はネオナチと区別がつかないと喝破している。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

デンマーク首相、NATO事務総長と北極圏の安全保障

ワールド

イラン、核施設査察に条件提示 6月の攻撃巡りIAE

ワールド

中国、国連専門家の声明に反発 ウイグル強制労働疑惑

ビジネス

12月の百貨店売上高5カ月ぶりマイナス、渡航自粛で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story