コラム

今さら「北朝鮮擁護」のカーターって?

2010年09月17日(金)16時40分

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保身か 北朝鮮寄りの発言をするカーターの意図は謎
Goran Tomasevic-Reuters

 私は北朝鮮高官と一緒に過ごしたことはないし、ハイレベルの核交渉に参加したこともない。しかし9月16日付けのニューヨーク・タイムズに掲載されたジミー・カーター元米大統領による論説「北朝鮮は取引を望んでいる」はあまりに奇妙で、寄稿の裏には隠れた動機があるのではと勘繰りたくなった。

 カーターは不法滞在で拘束されていたアメリカ人、アイジャロン・ゴメスの解放を実現するために8月末に北朝鮮を訪れた。そこで「総括的な和平合意と朝鮮半島の非核化に向けて、北朝鮮は米韓との交渉再開を望んでいる、という明確で強力なメッセージ」を受け取ったという。

 以下、論説の抜粋だ。


 私は平壌でゴメスの解放を要求し、それから彼が再審と特赦を受け、解放されるまでに36時間待たなければならなかった。その間に、(北朝鮮ナンバー2の)金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長、6者協議の北朝鮮主席代表である金桂冠(キム・ゲグァン)外務次官と面会した。

 彼らは私が公式な立場になく、アメリカ政府を代表して話すことはできないのを理解していた。そこで私は彼らの提案を聞き、質問をぶつけ、そしてアメリカに戻ってから彼らの意図を政府に伝えた。

 10年ほど前に、韓国の金大中(キム・デジュン)大統領や日本の小泉純一郎首相と築いたような良好な関係を展開していきたい、と彼らは語った。そして、最近のアメリカの行動について懸念を示した。不当な制裁を実施し、核攻撃の標的になる国に北朝鮮を含め、挑発的な軍事演習を韓国とともに行っていることなどだ。

 それでも彼らは、平和と非核化を望んでいることを示す用意はあると言った。6者協議については「死刑判決を受けたが、まだ執行はされていない」と言及した。


 確かに「死刑判決」なんてうまいジョークには、みんなほっとするだろう。

 カーターは、北朝鮮が協議の初期段階でも、09年に中断した最新協議の時点でも(北朝鮮が2度目の核実験と、長距離ミサイルを発射を行った年だ)、プルトニウムの再処理を続けていたことを認めている。実際のところ過去20年間、北朝鮮は核兵器開発計画を継続する一方で、援助や制裁緩和と引き換えに交渉再開を約束する、という駆け引きを定期的に行ってきた。今回はそれとどう違うのか? カーターはまったく説明していない。

 8月の訪朝であまりいい扱いを受けたわけでもないカーターが北朝鮮に手を差し伸べようというのだから、なおさら奇妙だ。昨年、アメリカ人記者の解放を求めてビル・クリントン元大統領が訪朝した際には、金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談を行った。しかしカーター訪朝の際は将軍様は慌てて中国へ向かい、部下の高官らと面会させるようにした。

 ジョー・リーバーマン米上院議員とカート・キャンベル米国務次官補が指摘しているように、カーターは今年3月下旬に発生した韓国海軍哨戒艦「平安」の沈没事件について触れてさえいない。このことは、彼の状況分析能力について深刻な疑念を起こさせる。

 カーターが北朝鮮寄りの発言をする意図はよく分からない。しかしキャンベルが言うように、北朝鮮が最近、交渉再開をアピールしていることを「私たちはよく知っている」。

 そこに新しい話は何もなく、結局は北朝鮮に軽くあしらわれたカーターが外交的な体面を保つためのものだったようだ。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年09月16日(木)18時25分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 16/9/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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