コラム

ブラッドリー効果でフランス人の偏見露呈

2010年03月17日(水)17時23分

 アメリカの政治オタクなら誰でも「ブラッドリー効果」を知っている。人種差別主義者と思われたくなくて世論調査員にはマイノリティー候補に投票すると答えた白人有権者が、実際には白人候補に投票する。そのために世論調査と選挙結果に大きな食い違いが出てしまうという現象だ。82年のカリフォルニア州知事選に立候補した黒人のロサンゼルス市長トム・ブラドリーが、世論調査ではリードしていたのに選挙には負けたことから彼の名がつけられた。

 バラク・オバマが勝利した08年の米大統領選挙ではブラッドリー効果は起らなかったが、どうやらフランスに表れたようだ。仏紙ルモンドは、14日に行われた州(地域圏)議会選挙(2回投票制)の第1回投票でブラッドリー効果の突然変異版が表れたのではないかと示唆している。移民排斥を訴えるジャンマリ・ルペン党首の極右政党・国民戦線が、事前の世論調査をはるかに上回る善戦を見せたのだ。得票率11・7%で第3党になり、ニコラ・サルコジ大統領が率いる保守系与党、国民運動連合(UMP)にとっては野党・社会党に負けたことと並ぶ打撃となった。

■ルペン支持票より反サルコジ票?

 フランスの世論調査機関は、国民戦線の支持者はルペンの過激な思想を支持していることを他人には認めたくなかったからではないかと言う。

 ルモンドがこれをブラッドリー効果の突然変異版と呼ぶのは、フランスの世論調査は有権者が嘘をつくことを予め計算に入れているはずなのに、それでも国民戦線の善戦を予想できなかったからだ。予想外の結果が出たのはおそらく、ルペン支持票ではなく反サルコジ票が国民戦線に集まったからだろうと分析している。

 理論的には、ブラッドリー効果が表れるのは、選挙結果に影響するだけの広範な偏見が存在するが、それを認めるのは(たとえ無記名の世論調査でも)タブーになっている国だ。フランス州議会選の第2回投票は、得票率が10%を超えた党派間で21日に行われる。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年03月16日(火)14時21分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 17/3/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月訪日外国人は単月最高の約349万人、年間も過

ビジネス

米ファンドのダルトン、フジHDに調査を要求 中居さ

ワールド

ウクライナで緊急停電、ロシア軍の大規模ミサイル攻撃

ビジネス

日経平均は5日続落、金利上昇を嫌気 日銀利上げへの
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 6
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 7
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 8
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 9
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story