コラム

「冷戦」南米は軍拡なのに平和

2009年11月10日(火)16時39分

戦争好き? ベネズエラの独立記念日を祝うパレードに参加する兵士(08年) Reuters


 今から20年前の1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊し、ほどなくして冷戦は終結に向かった。だが当時を懐かしんでいるとしたら、「アンデス山脈の冷戦」に目を向けるといい。東西冷戦ほどの緊迫感や核戦争などの悪夢のシナリオも到底あり得ないが、それでもスリルがある。

 ベネズエラのウゴ・チャベス大統領がコロンビアとの国境に軍隊を配備するなか、ペルー政府は南米諸国に対して地域安全保障軍の創設に加え、各国に兵器購入の削減を呼びかけている。ペルー政府によると、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領はこの提案に理解を示しており、来週にはコロンビアとパラグアイの両大統領と協議するという。

 ペルーの提案の背景には隣国チリに対する不信感があるにせよ、近年、南米諸国の軍事費が急増してきたことも事実。03年から08年にかけて南米の軍事費は倍増し、600億ドルに達したとの推計もある。米政府の推計によると、ブラジル、ベネズエラ、チリ、そしてコロンビアが南米全体の兵器購入額の80%を占めている。ヒラリー・クリントン米国務長官も、南米が軍拡競争に突入することを警戒してきた。

 もちろん、専門家がここ数年間指摘してきた通り、最大の懸念は国家間の戦争ではなく、むしろ資源絡みで生じる暴力だ。ノーベル平和賞を受賞したコスタリカのオスカル・アリアス・サンチェス大統領でさえ、兵器購入に反対しつつも、南米地域が今ほど平和だったことはなかったと指摘している。

――ジョルダナ・ティマーマン
[米国東部時間2009年11月09日(月)17時05分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 09/11/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story