コラム

中国覇権の背景に歴史捏造――ワシントン・シンポでも認識共有

2016年10月11日(火)16時20分

 つまり「中国共産党の歴史の塗り替え」と「中国の世界的な軍事覇権」は同一線上にあり、歴史の塗り替えを貫徹させるために軍事覇権を強行しているということができる。逆に言えば、「中国共産党が抗日戦争の中流砥柱であった」という「中国共産党史の塗り替え」と日本に対して高々と掲げる「歴史カード」は、中国の軍事覇権を正当化させるための「武器」にさえなっているのだ。

 この「武器」は、「情報戦」において威力を発揮し、世界の少なからぬ人々は「目つぶし」を喰らっている。

 これが中国覇権の実態であり、尖閣諸島領海侵入の根源なのである。

ワシントンのシンポジウムで認識を共有

 このことにいち早く気が付いたのはアメリカ共和党系の大手シンクタンクProject(プロジェクト)2049である。

 9月20日、ワシントンDCにあるナショナル・プレス・クラブで国際シンポジウムを開催し、筆者はそのトップ・スピーカーとして招聘された。

 テーマは「実事求是──中国共産党の歴史戦」。

「実事求是」というのは「事実に基づいて真実を求める」という意味で、毛沢東も鄧小平もよく使った、清代からある言葉だ。「中国共産党の歴史戦」というのは「中国共産党が歴史を書き換えようと必死で闘っている」という意味である。だから中国の方針通りに、「事実に基づいて真相を求めようではないか」という、皮肉が込められている。

 筆者は拙著『毛沢東──日本軍と共謀した男』を中心に、中国共産党の歴史の真相と、それが持つ現代性に関してスピーチをおこなった。もちろんそこには上述の視点を込めた分析も含めたつもりだ。

 Project2049のランディ・シュライバー会長は、冒頭の挨拶で以下のように述べている。

──その国がどのような歴史的ストーリーを描くかは、その国の人々のアイデンティティを形成します。アイデンティティは自分たちが世界と地域のどこに、どのように位置づけられているのかに関する視点を形成し、究極的にこれは、その国の対外的行動に影響を与えます。

 したがって、中国の教育、文化、メディア、そして現在アジア太平洋地域で論議されている中国が広めている対外的行動に影響を与えている歴史的ストーリー(筆者注:中国が主張する、これが真実だとする歴史的事実)を、中国がなぜここまで重要視しているのかを、私たちは理解しなければならないと思うのです。

 筆者のスピーチは、シュライバー会長のこの見解と、奇しくも完全に一致していた。

 最近、彼から感謝状が来て、そこには「われわれが疑問として長年抱いてきた中国共産党の問題点に解答を与えてくれたことに感謝する。これ以上の正解はなく、今後、この真相を全世界にさらに広めていく義務をわれわれは共有している」旨のことが書いてあった。

 ありがたいことだ。

 日米がこの認識を共有し、国際世論を形成することは、まさにわれわれの義務と言えよう。日本はこのことに気が付かねばならない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン、EV支援計画を発表 15億ドル規模

ワールド

米、貿易休戦維持のため中国国家安全省への制裁計画中

ワールド

COP30、米国離脱でも多国間主義の機能を示す=国

ワールド

米議員の株取引禁止する法案、超党派グループが採決を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story