コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
外国人の希望の星「新・羽田」は期待外れ
今週のコラムニスト:レジス・アルノー
外国へ旅行する人は、目的地の空港に降り立ったら、「ああ、やっと着いた」とほっとするもの。だが行き先が日本の場合、そうはいかない。外国人にとって成田空港への到着は、望んでもいない予定外の新たな旅の始まりを意味する。
航空券の記載どおり「東京」に到着したと思っている外国人。だが実際は、千葉に着いている。そう、まったく話が違うのだ。日本への旅行者がまず驚くのは、目に飛び込んでくる漢字でも日本人のひどい英語でもない。最終目的地に着くために、あと半日も移動しなければならないことだ。
東京で乗り換えて他の都市に行こうなんてする、怖いもの知らずの外国人については、気の毒としか言いようがない。国内便への乗り換えには成田からバスで1時間以上もかけて羽田に移動しなくてはならない。だから外国人はこう思っている。「東京の真の国際空港は、韓国ソウルの仁川(インチョン)空港だ」と。そこなら日本の約20都市に直接飛ぶことができる。仁川こそ、Yokoso Japan!ではないか。
そんなわけで、日本と仕事をする海外のビジネスパーソンたちは、10月21日にオープンする羽田空港の新滑走路を心待ちにしていた。羽田から東京駅までは、電車で約30分。羽田と東京駅八重洲口を、所要時間約10分のシャトルバスで結ぶ計画もある。
成田がホンダのスーパーカブだとしたら、羽田はトヨタのレクサス。だから国内外の旅行客の利便性など微塵も気にかけない千葉県知事は、羽田の拡張に激怒した。
■深夜・早朝ルールがおかしい
一方、あんなに期待を寄せていた外国のビジネスパーソンたちだが、「新しい羽田」の詳細が見えてくるにつれて、失望を隠せなくなってきた。問題は、羽田の開発があまりにも中途半端なこと。「生まれ変わります」とうたっているが、実際は変化というより現状維持の言い訳のようにみえる。
羽田は10月から国際線の発着枠を9万回に拡大するというが、東京のような大都市にはあまりにも少なすぎる。基本的に国際線の9割が成田から、国内便の9割が羽田から離発着する点は変わらない。
むしろ細かいところでは、さらに悪くなっている。アジア方面以外からの便が離発着できるのは、午後10時から午前7時の間だけ。なぜこんな決まりになるのか。国土交通大臣がどんな理屈を並べようと、その理由はひとつしかない。哀れな成田と千葉県知事のためだ。本来ならば空港は旅行客のためのものだと、東大卒のエリート官僚たちにはわからないのだろうか。マスコミはなぜ、この点を追求しないのか。
例えば、日本航空の東京発パリ行きは、午前1時30分に出発することになる。ビジネスマンにとっては許容範囲だろう。でも家族連れはそうはいかない。6歳と2歳の娘を夜中の1時半に飛行機に乗せるなんて。そんなかわいそうなこと、私にはできない。
ロンドン行きはさらに悪い。ブリティッシュ・エアウェイズの便は午前6時25分発。羽田から帰国しようとするイギリス人のビジネス客は、新宿に宿泊していた場合、午前3時半には起きて、5時には空港に着いていなければならない。
こんなせわしなさをイギリス人はどう思うだろう。今度の出張は、香港かシンガポールにしてほしいと頼むのではないか? そこなら貨物のように扱われることはなく、良識のない人を相手にする必要もない。
ひどい経験をした外国人は、こう思うはずだ。「日本はおかしな国」で、日本政府とその政権を選んだ国民は外国人旅行者のことはどうでもいいと思っている。日本人は自分たちの海外旅行にさえ関心がないのではないか、と。
■江戸風レストランがあっても・・・・・・
羽田は新国際ターミナルに江戸時代風のレストランを作り、外国人をもてなそうとしている。それは結構だが、食事がどんなにおいしくても空港に何時間もとどまりたい旅行者はいない。空港で無駄に使う時間があるのなら、東京の「本物」に触れたいはずだ。
私は約5年前、開港したばかりの中部国際空港を利用したことがある。レストランの素晴らしさは、羽田より上だろう。飛行機の離発着を見物できる銭湯にも、多くの人が興奮していた。なんと素朴で日本的なアイデアなのだろうと。しかし今となっては、中部国際空港の失敗は明らか。なぜって、利用者がいないからだ。
羽田の国際化を決定したのが、自民党から政権を奪って期待されながら誕生した民主党だったことにも、失望を超えて絶望を感じている。成田が乗り継ぎのための中継空港になり、羽田が旅を終える最終空港となれば、成田と羽田は共存できるし旅行者のわずらわしさもなくなる。
それはパリにおけるロワシー(シャルル・ド・ゴール)空港とオルリー空港の共存関係にあたり、とてもうまく機能している。なのに東京は、国内線と国際線を共用する空港を2カ所も持つことになった。経済的にみても旅行者にとっても筋の通らない話だ。
だがこの国で誰が観光客のことを気にかけてくれるというのか。国土交通省は間違いなく、どうでもいいと思っている。
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