コラム

東京も石原知事も「再出馬」せよ

2009年10月13日(火)18時14分

今週のコラムニスト:李小牧

 10月2日の深夜、新宿・歌舞伎町のわが湖南菜館でCCTV(中国中央電視台)東京特派員たちが打ち上げを開いた。彼らは2016年の夏季オリンピックの東京開催が決まる瞬間を見守るため、都庁で開かれた集会の取材帰りだった。

結果はご存知の通り。「中国人特派員たちが祝杯を挙げたに違いない」と思う読者がいるかもしれないが、大きな勘違いだ。むしろ残念会という雰囲気だったし、私自身も大いに落胆した。

「IOCに影響力のある人がいなかった」などと石原知事は人ごとのように敗因を分析していたが、私に言わせれば理由は一つ。日本国民を盛り上げられなかったからだ。

 何かと批判されている150億円もの誘致活動費用も、それだけの額を使うこと自体に問題はない。問題なのは、そのカネが日本国内の支持率向上のために正しく使われなかったこと。そして日本人が盛り上がらなかった最大の原因は、会場をほぼ東京に限定した基本計画にある。「コンパクトな五輪」を目指すあまり会場を都心に集中したことが、東京以外の無関心を招いた。

 石原知事が責任を取ってすぐ辞めるべきだと言う人もいるが、私はむしろ4期目を目指して次の選挙に出馬すべきだと思う。そして、東京も次の五輪招致レースに再立候補する。引退などと言わず、今回の経験を生かして2020年東京五輪を実現するのが本当の責任の取り方であり、150億円を無駄にしない方法である。

■20年東京五輪を実現する「切り札」

 2020年東京オリンピック招致委員会アドバイザー候補(笑)として、さっそく切り札になるアイデアを提案させていただこう。まず、競技の開催地に広島と長崎を加える。先日、両市が20年の五輪開催候補地として名乗りを挙げたが、競技施設や財政的な能力から言って、両市だけで夏のオリンピックを開くのは不可能である。

 東京も大空襲でたくさんの人が犠牲になったのだから、「平和都市」を名乗る資格は十分にある。そこであくまで東京をメーンとし、開会式を東京、閉会式を広島と長崎の両都市合同で開く――この方法で「平和五輪」を世界にアピールすればいい。

 五輪憲章は1都市開催を原則にしているようだが、大事なのは大会が成功し、スポーツを通じて世界の人たちが幸せになること。「1都市開催にこだわって、平和というオリンピックにとって最も大切なメッセージ発信の機会を失うべきでない」と、私ならIOCを説得できる。

 なんなら他の地方都市を会場に加えてもいい。日本人はあまり気付いていないようだが、これほど美しく、インフラも整備された地方都市が均等に散らばっている国はあまりない。

■民主党政権を巻き込んだ招致活動を

 理念だけでなく、現実の招致活動では交渉力も必要になる。石原知事はブラジルが戦闘機の購入と引き換えにフランスの1票を手に入れたと皮肉を言ったようだが、中国人である私に言わせればそんな机の下の取引は当たり前。聞けば、中国はIOC委員をあの釣魚台国賓館で接待したという。

 歌舞伎町で物欲、食欲、性欲の3大基本欲を満たすぐらいはこの招致委員会アドバイザー候補が喜んでお引き受けする(笑)。しかし、おそらくIOC委員はそんなことでは心を動かさない。

 去年、五輪前の中国が毒ギョーザ事件のイメージダウンに苦しんでいるとき、東京はほとんど何も支援の手を差し伸べなかった。もし何か手助けしていたら、中国と中国の影響力が及ぶ国は今回、東京に1票入れたに違いない。一方の手で殴りあいながら、もう一方の手で「プレゼント」を渡すずうずうしさがなければ、とても五輪招致を勝ち取ることはできない。

 鳩山首相のIOC総会演説を機に、民主党政権を五輪招致に巻き込もう。国を挙げて「机の下」の情報戦・交渉戦を戦えれば、東京が当選の可能性は今回よりずっと高くなる。平和をテーマにした「日本五輪」に、友愛主義の鳩山首相が反対する理由もないはずだ。

 今回のリオ当選で、日本人は「途上国の盛り上がりにはかなわない」と思ったことだろう。だが10年後に「途上国」扱いを受けるのは、経済の低成長と少子高齢化が続く日本かもしれない。国民が一つになれる目標があれば、日本はきっと輝きを取り戻せる。そしてその中心になれるのは東京しかない。

 2020年、60歳になる歌舞伎町案内人に改め東京五輪案内人のガイドで、88歳を迎える石原知事が東京オリンピックの開会式に立つ――石原ファン、そして東京ファンである李小牧のささやかな夢(笑)である。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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