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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
「共通の友人」を奪い合うネット企業の仁義なき戦い
最近は、インターネットやテクノロジー企業間の「離婚」話が多い。
たとえばインスタグラムとツイッター。写真共有サービスのインスタグラムは、ユーザーが撮った写真を、これまでツイッター上でもスムーズに公開するための手順を提供してきた。ところが先頃、インスタグラムは写真をうまくトリミングしてツイッター上に表示する機能を停止してしまったため、ツイッターでは満足な写真をシェアすることができなくなってしまった。
ずっとインスタグラムを使ってきたユーザーは、ここへ来て、これまで撮り貯めてきた写真を捨てて別の写真共有サービスに乗り換えるか、ツイッターでみっともない写真が表示されても耐え忍ぶのかの選択に直面している。
先月は、フェイスブックとソーシャル・ゲームのジンガの提携も破談になった。ジンガはフェイスブック上で成長してきたサービス。ジンガの収入の80%はフェイスブック経由でもたらされ、またフェイスブックもその収入の13%をジンガのおかげで得ている。以前は、フェイスブックがジンガのおかげでようやく収入を得ているという時期も長らくあった。
ところが、フェイスブックはジンガとの契約を打ち切った。ジンガがフェイスブック上で得ていた広告や勧誘などの特別プロモーションを中止して、今後はたくさんあるその他大勢のソーシャル・ゲームサイトと同じ扱いになるという。折しもジンガはソーシャル・ゲームが翳りを見せ始めて業績が低迷しており、ここ数ヶ月はレイオフのニュースばかり。ここでフェイスブックとの絆が断ち切られればかなりの痛手になるはずだ。だがフェイスブック側からみると、低迷するサイトと独占契約をするよりも、もっと裾野を広げておきたいということだろう。
もう数カ月さかのぼれば、アップルとグーグルの地図アプリの件もあった。iPhoneなどアップルのモバイルに標準装備されていたグーグルの地図アプリが、突然追放された。替わりに登場したアップル製の地図アプリが、ひどく見当違いの場所を表示するお粗末なものだったことからアップルは大恥をかいた。そんな未完成品であったにもかかわらず、ともかくグーグルのアプリを追い出したい一心だったわけだ。
なぜこうした離婚が起こるのか。
ここで起こっている話を人になぞらえると、結構ひどい話だ。最初は特別な契りを結んで、わきあいあいと仲がいい。一方が持っている広い交友関係へもアクセスして、みんなで楽しくやっているように見える。ところが、その交友関係をほぼ完全に共有する頃になると、交友関係を提供してくれていた相手を切ったり、その共通の友人たちに「あちらかこちらか、どちらかを選べ」と迫ったりするのだ。何だか、イヤな奴っぽくないだろうか。ここで言う交友とは、もちろんわれわれユーザーである。
どのケースにも共通しているのは、当初は多くのユーザーを持つサービスやサイトと提携したり、居候することからスタートし、そのおかげで大きな成長を果たす。ところが、自分の成功が確かになると、突然手のひらを返したような動きに出るということだ。
その背景にあるのは、どのサービスも、ユーザーを自分のサイトだけに留めておきたいという欲を持ち始めることだ。自分のサイトでユーザーが長居すれば、それだけ広告主へのアピールができるし、今はユーザーの行動データを取ることによって、それを売り物にしたり、さらに高い広告費を取ったりすることができる。インスタグラムの場合は、同社を買収したフェイスブックとツイッターとのユーザーの取り合いだ。
迷惑をこうむるのはユーザーである。これまで楽しんで使っていたユーザーの都合を無視して、自分たちの勝手でくっついたり離れたりするのだ。つまり、ユーザー・データが欲しいあまりに、ユーザー自身がその犠牲になっているのだ。妙な話である。
考えてみれば、たかがインターネット上で起こっているに過ぎない事態を大騒ぎしているわれわれも、同じくらい妙なものだとは思う。まるで家路へ続く橋が焼き落とされてしまったかのような怒りと狼狽ぶりだ。
だが、ここでは不都合以上に目を向けるべき重要なポイントがふたつある。ひとつは、ユーザー・データがこれほどまでに、本格的に重要になってきたということ。各サービスはユーザー・データをたくさん集め、それを独り占めしようと必死になって、ユーザー自身すら二の次にしなければならなくなっているということだ。われわれのネット上の行動が、われわれの知らないところで本当に売れる商品になる時代がすでに到来しているということである。そしてもうひとつは、そのせいで、この手のサービスは今後どんどん壁で仕切られていくようになるということである。
だから、今目にしている離婚話はほんのさわりであって、これから同じようなことがどんどん起こると考えておいた方がいい。そんな動きを起こさせるもっと大きな原動力の方にこそ、目を向けておくべきである。
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