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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
鳴り物入りのIPOにも踊れない空気の正体
GM(ゼネラル・モーターズ)がIPO(新規株式公開)を発表したが、ここのところテクノロジー業界でもIPO計画がいくつか聞かれ始めた。例を挙げると、スカイプ(Skype)とハル(hulu)である。いったいまたあのIPO騒ぎが戻って来るのかと、期待と嫌気の入り交じった気分だ。
アメリカの景気はパッとしない状況が続いているのだが、そんな中でのIPO。この2社はいずれも特異なビジネス・モデルで人気を得てきた新興企業とは言え、収入などの業績の面でははなはだ不安定である。IPOは、これから経済環境が回復することを見込んで、今こそ話題を振りまいてやろうという危ない賭けにも見える。
スカイプは、ご存知の通り無料でインターネット電話がかけられるサービスである。最近はiPhoneなどのスマートフォン用にもアプリケーションが開発されて、一段と広まり、今やユーザー数は世界中で5億6000万人を超えたという。
それだけのユーザーを抱えながらも、スカイプのIPOは「失敗する」と見る人々が多い。理由は、「タダ」で利用できるというモデルにある。
スカイプでは、固定電話や携帯電話へかける通話が課金されるだけで、双方がコンピュータを使った利用は無料。ユーザーは03年の創設以来どんどん増え続けているが、金を払っているユーザーはたった6%ほどという。
失敗と主張する人々は、タダ乗りするユーザーの餌食になっているビジネスなど将来性はないと見ているのだ。クリス・アンダーセンの著書『フリー』への注目度は高いが、それとは裏腹に、フリーがビジネスとして成り立つのかどうかを精査する方向へ時代が向かっているということだろう。
私自身はスカイプの愛用者なので、これからもうまく運営してほしい、タダでサービスを続けてほしいと願う反面、ビジネスの成り立ちを厳しく精査するのは正しいことだとも思う。そして私だけでなく、こうした半ば相反した見方を抱いている人々はたくさんいるに違いない。ユーザーとしての感情と、派手なIPOの空騒ぎはもうたくさん、という一消費者としての感情が並立しているのだ。
■一攫千金より地道に課金せよ
その意味では、ハルも似たようなものである。日本では利用できないため認知度は限られていると思うが、ハルはインターネットでタダでテレビ番組を見られるサービスとして、08年に登場した。
時に破廉恥で雑多なコンテンツが満載のユーチューブとは違って、ハルはディズニーとNBCユニバーサル、ニューズ・コーポレーションがジョイント・ベンチャーで設立した由緒正しいサイトだ。画面も解像度を落とすことなく大きく拡大することができ、人気テレビ番組も数々見られる。インターネット・テレビとはかくありなん、と思わせるサービスである。
設立2年でIPOに踏み切るとは、インターネット・バブル時代を思い出さずにはいられないが、果たしてこちらもビジネスとして独り立ちできるのかどうかが、どうも不明だ。ハルは最近ひと月9.99ドルのプレミアム・サービスを開始したものの、その人気はまだわからない。また広告収入ではユーチューブに負けている上、競合サービスもかなり多く、コムキャスト、ベライゾン、タイム・ワーナーなどのケーブル・テレビ会社は、ウェブに加えてiPadへのストリーミング配信を始めると発表したところだ。
そうした競合サービスが林立する中で、ハルには充分な強みがあるのか。「タダならいいけれど、有料ではちょっと......」というユーザーが本当はたくさんいた、というのは充分にあり得ることだろう。
要は、話題を振りまいてIPOし、それをテコにして資金を集めるという手法はもはや時代の空気に合わなくなっているのではないかということだ。それよりも、ユニークなマイクロ課金のような方法で実績を積み上げていってはどうかと思うのだが、テクノロジー界にはまだIPOというエグジットへ流れてしまう癖と経済構造があるのだ。
最近も、鳴りもの入りのIPOがたちまち冷めた例があった。電気自動車開発・販売のテスラ・モーターズである。テスラは去る7月にIPOを果たしたが、当初の熱気はどこへやら、その後の株価は高揚しないままだ。不景気が長く続いているため、誰もが明るい話題を求めてテスラのIPO騒ぎに関わったが、現実はもっと厳しかった。
いずれにしても、以前のようなおもしろいビジネス・モデルにもIPOにも熱狂できなくなっているアメリカ。スカイプとハル、2社の動きは、アメリカの本音の空気を占う点で興味深い試金石になるだろう。
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