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コラム
町山智浩やじうまUSAウォッチ
アメリカでは「科学は真実だ」というのも勇気がいる~ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの科学教育ソング
お日様って光り輝く
プラズマの塊なんだよ
お日様はただのガスなんかじゃない
プラズマさ!
電子が自由に飛び回ってるんだ
プラズマさ!
物質の第四状態だ
気体じゃない
液体でもない
もちろん固体なんかじゃない
(Why Does The Sun Shine by They Might Be Giants)
ポーグス風パブロックで太陽についての科学的知識を歌うのはゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ。オフビートなサウンドとトボケた歌詞で人気のニューヨークのロックバンドだ。
彼らのニュー・アルバムは『Here Comes Science(科学がやって来た)』。『ABCがやって来た』、『1.2.3.がやって来た』(グラミー賞受賞)に続く、子供向け教育アルバムだ。
「鉄は金属、酸素で錆びるのを見たことあるよね/炭素は石炭だけど、圧力かけるとダイヤモンドになるんだよ」と歌う「元素を紹介しよう」というフォークソングや、「植物は太陽の光を取り込んでエネルギーに換える/地球のすべての生物はその植物に頼って生きてる/光合成! 光合成!」とコーラスが80年代デヴィッド・ボウイ風の「光合成」。その他、「僕は古生物学者」「流れ星って何?」「惑星はいくつある?」「細胞」「スピードと速度」「固体液体気体」などの歌が『科学がやって来た』に収められている。
ダンサブルでユーモラスなロックで科学を学ぶ! こりゃ親がみんな喜んで子供に買って聴かせるだろう! うまい商売だね! そう思うかもしれない。けれども、違う。
『科学がやって来た』には「類人猿は僕の兄弟」という歌がある。もう、これでアメリカ人の半分近くはこのアルバムを買わないのだ。
ギャラップ社など複数の調査で、アメリカ人の4割はダーウィンの進化論を信じていないことがわかっている。旧約聖書の創世記に「神が世界と人類を創った」と書いてあるからだ。特に国民の3割近くを占める福音派(聖書を字義通りに信じようとするクリスチャン)は、類人猿が進化して人間になったとか、宇宙はビッグ・バンで始まったということは信じない。
アメリカでは1920年代にテネシー州で学校の理科の授業で進化論を教えた教師が有罪になり、以後、南部の数州では公立学校で進化論を教えることが法律で禁じられてきた。80年代に最高裁が進化論教育の禁止は憲法違反だと判断すると、クリスチャンたちは「創造説(神が世界を創造したとする説)も学校で教えないと不公平だ」と言い出した。福音派であるジョージ・W・ブッシュ大統領も「創造説を学校で教えるべきだ」と発言している。
ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツが『科学がやって来た』をリリースした9月、ダーウィンの進化論研究を描いたイギリス映画『クリエーション』がカナダのトロント映画祭で上映された。しかし、この映画をアメリカで配給しようとする会社は現れなかった。配給するとキリスト教保守派から「神に反する会社」のレッテルを貼られてしまう。ホット・ポテト(焼きたての芋。"火中の栗"と同じ意味)をわざわざ拾うことはない。南京大虐殺を描いた映画がなかなか日本公開されないのと同じだ。
これが科学の最先端を進んでいたはずのアメリカの実態だ。だから、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツはこのアルバムをまず「科学はホントーだ」という歌で始めなければならなかった。
科学はホントーなんだ
ビッグバン理論だって DNAだって
科学はホントーだよ
進化論だって 銀河系だって
科学の理論というやつは
ただの思いつきや当てずっぽうじゃないんだ
科学は問題と取り組むんだよ
たくさんの実験を通してね
だから導き出された科学理論は
多くの事実の集積なんだ
(Science is Real by They Might Be Giants)
こんな当たり前のことをわざわざ歌う必要があるの? と思うかもしれないが、アメリカではホントーに勇気のいることなのだ。ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツはアルバム発売後のインタビューで「『科学はホントーだ』に対して抗議運動が起こらなくて正直ホッとしている」と言っている。「アンチ科学の人々を怒らせる内容だからね」
というわけで、僕は今月、「アンチ科学の人々」に会うためにケンタッキーの創造説博物館に行ってきます。ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツもこう歌っている。
誰かが何を言っても
疑問の余地があるなら
実験で確かめなくちゃ
調査して研究して
自分で確かめるんだ
「みんながそう言ってるから」
なんて理由で物事を信じるな
(Put It to the Test by They Might be Giants)
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