コラム

中国政府は大気汚染対策ができるのか

2013年01月28日(月)11時10分

 今年1月中旬、北京を中心に中国各地は、猛烈な大気汚染に見舞われました。ほとんど前が見えないのではないかと思われるような状態で、日本人学校は屋外での活動を中止したとか。
 
 北京のアメリカ大使館が使っている大気汚染指数AQIでは、301以上が「危険」とされているのに、1月12日には非公式測定で800に達したと『ニューズウィーク日本版1月29日号』の記事「北京のスモッグは共産党独裁への脅威」は報じています。

 なぜ汚染がひどくなったのか。当局の見解は、「風が弱かったから」。さすがのコメントですね。これって要するに、「なぜ大気汚染がひどいのですか?」との質問に、「空気が汚れているからです」と答えるようなものではありませんか。

 これまでは汚染物質が風で吹き飛ばされていたから問題が表面化しなかっただけと告白しているようなものです。中国の国家も自治体も、大気汚染の深刻さと原因について語ろうとはしません。共産党の責任になるのは明らかだからです。

 汚染物質を大量に排出する企業の幹部は共産党員。取り締まるべき役所の幹部も共産党員。共産党に監督されるメディアは、現状を伝えることはあっても、汚染物質を出す企業経営者の責任は追及しません。

 この問題について、同号の記事「経済と環境は両立できるのか」は検討を加えています。

「成長一辺倒の政策路線は数々の社会・環境問題を引き起こし、結果的に経済的な損失をもたらしている。世界銀行によれば、08年には環境の破壊と汚染が国民総所得の実に10.51%を食いつぶした」と。

 では、どうすればいいのか。この記事は、こう提言します。

「当局による適切な政策誘導と環境規制が欠かせない」「環境基準を定めた法律の文面よりも、それを厳格に適用することを重視すべきだ。環境対策が遅々として進まないのは、法がきちんと遵守されていないせいでもある。その原因は法律の基準が厳し過ぎて、関係者が守る気になれないためかもしれない」

 ちょっと待ってくださいよ。「法律の基準が厳し過ぎて」? 中国の基準は、そんなに厳しいのですか? 中国は、そもそも法治国家ではないのが問題なのではありませんか?

 ここで私が思い出すのは、日本の公害問題です。四日市喘息などの大気汚染。東京の光化学スモッグ。メディアが大きく報道し、住民運動が起きて、それからようやく自治体や政府が動いたのです。報道の自由や住民運動の自由がなければ、改善への動きは起きない。これこそが真の原因ではないのですか。
 
 ただし、北京市内の大気汚染が深刻になり、共産党幹部や幹部の家族に呼吸器疾患が蔓延すれば、対策に乗り出すかも知れませんが。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国工業部門利益、1─2月前年比-0.3% 民間企

ビジネス

東京エレク、ドジャースとパートナーシップ契約 球場

ワールド

米20州と首都の司法長官、トランプ政権の法曹界攻撃

ビジネス

米国の自動車関税措置「極めて遺憾」、日本の除外強く
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 9
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story