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コラム
池上彰Newsweek斜め読み
中国現代史への視座
本誌日本版4月25日号の表紙は、赤旗に黄色の「鎌とハンマー」です。久しぶりに見る旧ソ連の国旗......と一瞬勘違いしそうになりましたが、そうではなく、中国共産党の党旗(徴章)でした。
「鎌」は農民、「ハンマー」は労働者のシンボル。虐げられた農民と労働者を守る党が共産党......ということになっていました。中国が、ここまで剥き出しの資本主義路線を走っていても、その舵取りをしているのは「共産党」という名称の政党なのです。
この党は、まだ中華民国の時代に上海の一角で産声を上げました。創設以来、数々の党内闘争が起こり、裏切りと失脚に彩られてきました。彩りは血の色でした。
そしてまた、重慶市のトップだった薄熙来の失脚をめぐって党内闘争が繰り広げられているようです。
薄熙来が重慶で展開した「革命歌を歌おう」運動は、文化大革命のことも知らない若者たちが紅衛兵の格好をするという醜悪なものでした。でも、時の流れは不思議なもの。年寄りたちが、往時を偲んで喜んでいるのですから。当時、大勢の人が苦しみ、多くの血が流されたはずなのに。年寄りたちが革命歌を懐かしがる光景は、まるで軍歌で歌いながら苦しかった戦時中を懐かしむ老人たちの姿にイメージが重なりました。
「革命歌を歌おう」運動は、それなりのインパクトがありました。毛沢東の時代は、貧しかったけれど、皆平等。それに対して、いまは格差が拡大。そんな庶民の不満が薄熙来への支持につながっていました。北京のタクシー運転手が毛沢東の写真を車内に飾っているのを私は何度も目撃しました。北京の「毛主席紀念堂」に安置されている毛沢東の遺体を見に来る人たちの列は絶えません。
過去にも、鄧小平が改革開放を進めると、党内の保守派が反発。「毛沢東時代に戻れ」とばかりに、改革が引き戻されたりしたものです。いまの資本主義化された中国の光景を見ると、共産党内部には依然として資本主義化する潮流を面白く思っていない勢力がいることを忘れがちになりますが、それでは中国の奥の院で展開される権力闘争が見えてこなくなります。
中国に比べれば、日本のほうがはるかに"社会主義"国家。中国共産党は走資派(資本主義の道を進む者の意。文化大革命時代、共産党の改革派に貼られたレッテル)そのものですが、党名が「共産党」である以上、どこかで揺り戻しが起きるものです。
そんな歴史観を持って、本誌の特集を読むと、一層興味深いはずです。
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