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コラム
池上彰Newsweek斜め読み
大統領とは殺人を命じる職でもある
ウサマ・ビンラディン殺害に沸くアメリカ。パキスタンの隠れ家にいるビンラディンを確認した米海軍特殊部隊は、丸腰のビンラディンに対して躊躇なく銃弾を見舞いました。オバマ大統領の命令を実行したのです。身柄を拘束するつもりは最初からなく、殺害するのが目的だったようです。
パキスタンという他国の領土に勝手に入り込んで、ビンラディンを殺害するなど、まさに暗殺作戦。そんなことが認められるのか。こう問われた米政府首脳は、「太平洋戦争中、日本軍の山本五十六司令長官を暗殺したのと同じで、戦争中の司令官殺害は正当な戦争行為だ」と答えたとか。まさか、ここに山本五十六が出てくるとは思いませんでしたが、米政府は、ビンラディンが率いたアルカイダと戦争をしているという認識であることがわかります。そういえば、2001年9月11日の同時多発テロを受けて、当時のブッシュ大統領は、「これは戦争だ」と叫びました。それが、いまも続いているのですね。
今回の特殊部隊による作戦は、オバマ大統領による承認によって開始されました。つまり、「ビンラディンを殺害せよ」と命じたのですね。アメリカの大統領とは、殺人を命じる職でもあるのです。政治のトップとは、なんとも辛い職業です。もっとも、日本の政治家に、果たしてどれだけの自覚・認識があることやら。
「アメリカ人はずっとオバマびいきだったが、最高司令官としての資質を疑っていた。今回の作戦成功でその疑いが消えた」と歴史家のダグラス・ブリンクリーに語らせているのは、本誌日本版5月18日号の記事です(「弱腰」オバマは汚名返上できたか)。
この記事は、オバマが、大統領選挙中から「タカ派顔負けの口調で叫んでいる」ことを読者に思い出させます。
「テロ組織の幹部の潜伏場所に関する情報があるのに、(パキスタン政府が)行動を起こさないなら、われわれがやる」と。
現在の米軍・CIAは、アフガニスタンとの国境に近いパキスタン領土に潜むアルカイダのメンバーに対して、無人機を使っての殺害を続けています。連日のようにパキスタンの主権侵害を繰り返しているのです。その延長上に、今回のビンラディン殺害もあるのです。
オバマ大統領は、実はブッシュ顔負け、いやブッシュ以上のタカ派だったようです。しかし、非常に慎重で巧みなタカ派です。一期目の大統領は、二期目の当選を目指します。対テロ作戦も、大統領再選戦略に位置づけられます。
「来年の大統領選で。共和党候補がオバマの最高司令官としての資質に異議を唱えることは難しくなった。そんなことをすれば、ブッシュが8年かけても達成できなかったことをオバマが2年でやり遂げた事実を有権者に思い出させるだけだ」
ちょっとオバマを持ち上げ過ぎなんじゃないの、と突っ込みを入れたくなりますが、ビンラディン殺害も、結局は政治戦略の中に組み込まれてしまうものなのです。
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