コラム

アフリカへの援助はどうあるべきか

2010年11月11日(木)10時58分

 アメリカのオバマ政権を支えてきた民主党が中間選挙で敗北し、オバマ政権は苦しい立場に追い込まれています。政権が内政問題にかかりっきりになってしまうと、対外援助などは望み薄になりそうです。

 そんな問題を取り上げたのが、本誌日本版11月10日号の記事「スーダンが問うアメリカの限界」です。アフリカのスーダン南部は、長い内戦が終わり、復興をめざしているのですが、アメリカからの援助が頼り。その「アメリカの力の限界がささやかれるようになった」というのです。

 スーダンというと、ダルフール紛争を思い出す人が多いでしょうが、この国では、他にも紛争を抱えてきました。そのうち最も大きかったのが、南北の内戦です。

 アフリカ最大の面積があるスーダンは、北部にアラブ系イスラム教徒、南部にアフリカ系キリスト教徒が多く住み、対立が続いてきました。アラブ系イスラム教徒主体の政権が、イスラム法の導入を打ち出したことに南部の住民が反発。実に22年間にもわたって内戦が続きました。200万人以上もの死者を出したのですが、国際社会の関心は薄く、「忘れられた戦争」と呼ばれました。

 それでも近隣諸国の仲介もあり、2005年に内戦はようやく終結。南部には自治政府が樹立され、石油資源が自治政府にも分配されるようになりました。

 来年には南部で、北部からの分離独立に踏み切るかどうかを問う住民投票が実施されます。完全独立を果たしたい南部の自治政府と、独立を阻止したい北部政府。内戦再燃の危機すらあります。

 内戦を二度と起こさないようにするには、「戦うことしか知らない」という生活を送ってきた元ゲリラ兵士たちに働く場所が必要です。行政機能の確立も急務です。

 しかし、いまのままでは、それもおぼつかないのです。それどころか、援助資金の投入と援助関係者の激増で、南部の中心都市ジュバはインフレ状態。「シカゴのリッツ・カールトンよりジュバのお粗末なホテルのほうが高い」という関係者の談話が紹介されています。

 実は私も去年夏、このジュバを取材したのですが、宿泊した「サハラ・リゾートホテル」は、名前とは裏腹にコンテナを積み上げただけの「コンテナ・ホテル」。それでいて宿泊費は高級リゾートホテル並みでした。市内は国連や国際援助団体の車が走り回り、復興景気に沸いていましたが、インフレが進んでしまっては、真の復興につながりません。

 長年の内戦の結果、教育も壊滅状態。学校の校舎を再建させても、先生がいません。先生を養成するためには教員養成大学が必要ですが、ここで教える人材が存在しません。なにもかもゼロから立ち上げるには、長い時間と多額の費用が必要です。

 日本も元ゲリラ兵の就職支援など援助をしていますが、いかんせん資金の制約があります。

 アメリカはスーダンに対して、過去5年間に約60億ドルもの援助を注ぎ込んできました。資金を注ぎ込めばいいというものではありませんが、アメリカのオバマ政権が内向きになれば、スーダンが危機に陥る可能性が高いことも事実です。

 この記事の見出しの通り、「アメリカの限界」は明らか。そうなれば、多額の資金を注ぎ込んでかりそめの復興景気を盛り上げるより、地元の人たちが自力で復興に進めるようにすることが大事です。とはいえ、そのためにはどうすればいいのか。その手法の開発が急がれるのですが、これがまたむずかしいのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story