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コラム
池上彰Newsweek斜め読み
冷戦時代の発想は今も残る?
スパイものは、どうしてみんな興味を持つのでしょうか。しかもそこに、「美人スパイ」が登場すると、俄然ヒートアップするのは、洋の東西を問わないようで...。
「美しすぎるスパイ」などと、なんだか市議会議員風のネーミングがついたロシアの女性スパイを含む10人は、ロシア側に捕まっているアメリカ側の4人と交換されて決着しました。
いまどきスパイの交換なんて、まったく冷戦時代そのものですが、この騒動を冷静に分析している記事が、本誌日本版7月14日号の「冷戦から帰ってきたスパイ」です。
敵国に溶け込んで、その国の国民として暮らすようにスパイを送り込むのは、戦前の日本の陸軍中野学校の手法を想起させます。「草」を送り込むのは、いずこも同じです。
おっと、これは専門用語でしたかね。「草」とは、そこの国の人として生活する、という意味のスパイ業界用語です。
また、かつてのソ連は、シベリアで抑留した日本人を洗脳して「スリーパー」として帰国させました。「スリーパー」つまり「眠る人」。何事もなかったかのように日本に戻って生活していると、ある日、ソ連の担当者から連絡が来て、「眠り」から醒め、スパイ活動を開始する、という仕掛けでした。
それにしても、この情報社会で、アメリカの「草」となったロシアのスパイたちは、何を集めていたのでしょうか。
新聞を読んでまとめた程度のリポートでも、ロシア側は大喜びをしていたと、この記事は指摘しています。新聞を情報源にしていたため、「モスクワ・センター」から情報源の名前を出せと迫られて困ったスパイに対して、仲間は「適当に政治家の名前をでっち上げればいい」とアドバイスしていたとか。こんないい加減なスパイ活動だったのですね。
「ロシアのKGB出身者は、公表された情報よりも内密の情報を知りたがる」と著者は分析していますが、これもまた、古今東西を問わず、人間の習性ですね。居酒屋の飲み会で、「ここだけの話だけどさあ...」と耳元で囁かれると、つい信じてしまう新橋のサラリーマンと同じレベルです。
しかし、スパイの世界は奇々怪々。この記事では、「一連の裁判資料だけでも十分に楽しめそうだ」「夏休みの気楽な読書にはうってつけ」と予測していたのですが、実際には裁判を開くことなく、スパイ同士の交換で幕を閉じました。
スパイ同士の交換とは、「もしお前がスパイと発覚して逮捕されても、必ず取り戻してやるぞ」と国家が保証する働きがあります。これならスパイの忠誠心は揺るぎません。つまり、スパイの交換が行なわれたということは、今後もスパイ合戦が展開されるという意味でもあるのです。
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