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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「ケネディ姫」のわがままが日米関係を混乱させる
共同通信によると、NHKがキャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使へのインタビューを申し込んでいったん了承されたが、2月になって大使館が百田尚樹氏(NHK経営委員)の発言を理由に断ったという。これは「大使とワシントンの意向」とのことだが、大使が経営陣の発言を理由にNHKの取材を拒否したのが事実だとすれば前代未聞である。
大使が問題にしたのは、百田氏が東京都知事選挙の応援演説で東京大空襲や原爆投下を「大虐殺」と呼び、「東京裁判はそれをごまかすための裁判だった」という発言らしい。これは歴史認識として間違っているが、彼の個人的意見であってNHKの見解ではない。こんな理由で政府機関が取材を拒否したら、報道は成り立たない。
ケネディ大使の暴走は、今に始まったことではない。彼女は1月にも、ツイッターで「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します。イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています」という意見を表明して話題になった。これは彼女の個人的な意見だったが、のちに国務省がこれを追認した。
捕鯨は国際条約で規制されているが、イルカ漁についての条約はないので、アメリカ政府が日本のイルカ漁に干渉することはできない。大使のいとこに当たるロバート・ケネディ・ジュニアは、反捕鯨団体「シーシェパード」の弁護士もつとめる環境保護活動家だから、大使はイルカ漁の映画でも見せられたのかもしれない。イルカ漁が残虐だというなら、アメリカ人が牛を年間3500万頭も殺している映像を見たら、彼女は卒倒するだろう。
昨年12月26日には、安倍首相の靖国神社参拝について、その日の午後にアメリカ大使館が「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」というプレスリリースを発表した。こんな重大な発表が、参拝から6時間足らずで出されたのは異例である。
この時間はワシントンの深夜だったから、このリリースは本国の了解を得たものとは考えられない(のちに国務省が追認した)。「失望している」(disappointed)というのは同盟国には使わない強い表現で、外交儀礼を知らないケネディ大使が独断で出した可能性もあるのではないか。
彼女はオバマ大統領の政治任用で大使になったが、外交官の経験はない。その経歴をWikipediaでみると、ケネディ大統領の長女で、ハーバード大学のカレッジを卒業してコロンビア大学のロースクールを出るなど学歴は立派だが、大統領の長女なら事実上無試験だから学歴には意味がない。
その後は弁護士として活動した形跡もなく、美術館の学芸員やNPOの理事ぐらいしかキャリアのない「兼業主婦」だったが、2008年のオバマの選挙キャンペーンに突如、登場した。そのあとヒラリー・クリントン上院議員が国務長官になった後釜に座ろうとしたが失敗し、今回の駐日大使は、彼女の人生で初めて意味のある仕事だ。
上院議員になりそこねたのは、ヒラリー(民主党右派)にきらわれたためだろう。ケネディ家は伝統的に左派で、一族にはロバート・ケネディ・ジュニアのような左翼の活動家も多い。オバマ大統領は左派のリーダーだから相性はいいのだろうが、安倍首相との相性は最悪だ。百田発言に対する反発も、安倍氏への嫌悪が原因だろう。
要するに彼女は「JFKの七光り」以外には何の実績もない「お姫様」なのだ。今までの行動からみると、かなりわがままな性格だと思われるが、大統領の後ろ盾があるので大使館員ではブレーキをかけられない。大使はほとんど名誉職なので大した実害はないが、日米関係にいい影響はない。今後も要注意である。
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