コラム

「先祖返り」する習近平体制

2014年05月21日(水)15時12分

 高瑜女史は、昨年8月にアメリカに本部を持つ中国語図書出版社が発表した「目下のイデオロギー事情に関する通報」と題された、中国共産党の内部通知の「漏洩」に関わったとされる。同通知の主な内容は、「西洋の憲政民主を持ち上げ、現代の指導や中国の特色ある社会主義政治制度を否定すること」「公民社会を持ち上げ、党による政治下における社会基礎を瓦解させようとすること」「新自由主義を持ち上げ、中国の基本的な経済制度を変えようとすること」「西洋の報道観を持ち上げ、中国における党によるメディア管理原則及びニュース出版管理制度に挑戦すること」など7点を「危険なもの」として取り上げ、警戒と除去を求めていた。習近平体制成立直後の昨年4月に下された通知であり、同体制の施政方針を単刀直入に示したものと見てよいだろう。

 その結果、弁護士や学者、そしてジャーナリストが次々と捕まった。さらに今月中旬には広州の僧侶、聖観法師が「国家政権転覆扇動罪」容疑で逮捕されたことが明らかになっている。同法師もまた1989年当時、北京・天安門広場に集まった学生たちに呼応して民主活動に参加し、1年間入獄した過去を持つ。2001年に出家した後も天安門事件の犠牲者への済度儀式を主宰するなどして警察に追い出され、その後も(その死が天安門事件のきっかけとなった)胡耀邦の追悼準備を進めたかどで住職を追われている。今回の逮捕は武漢で法会を行っていた最中に警察がやってきて同法師と集まっていたネットユーザーを連行したという。

 法律、メディア、そして宗教。明らかに社会主義にとってネックになる分野の人物ばかりが集中的に拘束されている。過去、治安維持体制を強化してきたと言われた胡錦濤・温家宝体制でもこれほど明白な取り締まりは行われなかった。その分、習近平体制とは時代を逆行するシステムであることは明らかであり、また庶民に意外観をもたらした胡錦濤・温家宝時代の親民路線はここで打ち止めになったといっていいだろう。今後少なくとも6月まで続くであろう厳戒態勢下で、さらにどのような犠牲者が出るのか。そしてそれが社会にどんなショックを与えるのだろうか。

プロフィール

ふるまい よしこ

フリーランスライター。北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部中国学科卒。1987年から香港中文大学で広東語を学んだ後、雑誌編集者を経てライターに。現在は北京を中心に、主に文化、芸術、庶民生活、日常のニュース、インターネット事情などから、日本メディアが伝えない中国社会事情をリポート、解説している。著書に『香港玉手箱』(石風社)、『中国新声代』(集広舎)。
個人サイト:http://wanzee.seesaa.net
ツイッター:@furumai_yoshiko

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story