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教育

イギリスの「パブリック・スクール」は公立学校ではない...マナーとモラルを重視する名門校から学べることとは?

2025年03月05日(水)11時00分
秦 由美子(ビューティー&ウェルネス専門職大学・教授)

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左からイートン校、ウェストミンスター校、ラグビー校 筆者撮影

思い起こすと

私がオックスフォード大学の教育学研究科で学びだしたのは、時期的には「黄昏の国」と呼ばれ、丁度サッチャーが大幅に社会改革、大学改革を実施していた頃だ。また、私自身が初の日本人大学院生で、女性かつアジア人ということで差別を受けることもままあった時代だった。

大学での研究生活に慣れるにつれ、伝統的大学と考えられているオックス・ブリッジの進学者の多数を占めていたパブリック・スクールにも、少しずつ関心を持つようになっていった。これほど多くの進学者を出すパブリック・スクールとは一体どのような学校なのだろうか、と。

私にとって初めての訪問校は、イートン校だった。校長がジョン・ルイス氏(1994‐2002年)であった頃に、ルイス校長とハウスマスターであったクック先生にお目に掛かった。お二人とも大変有名な教師だが、お会いした時には大学進学については露ほども話されず、イートン校の生徒の人格形成の重要性を力説されるばかりだった。それも、悪いことに対しては、正々堂々と批判できる精神の持ち主を育てることの重要性をこんこんと話されるのだ。

クック先生の言葉を借りると、「卒業時には自立した心と、他人を思いやる心をもつことができるようになること、そして、骨のある人間になることを私たちは願っている」とのこと。クック先生の述べる「骨」とは、揺るぎない信念、自らが寄って立つ思想のようなものであり、それを支えているのが「モラル」や「責任感」ということなのであろう。

氏の言葉は、受験勉強に悩まされてきた私にとっては、衝撃的な話で、このような先生に育てられている生徒たちは、社会に出て一体どのような活動をするのだろう...と思ったものだった。そして、そういった考えを纏める中で、『映画で読み解く イギリスの名門校──エリートを育てる思想・教育・マナー』(光文社)と『パブリック・スクールと日本の名門』(平凡社)という著書を書くことにつながったのだった。

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