一方で、土居氏は会計検査院長の田中弥生氏との対談で、
と指摘している。確かにこれだけ社会に大きな影響を与えたパンデミックについて、どれほどの事後検証がなされてきただろうか。本来、責任をもって検証すべき立場にある政府は重い腰を上げていない。
2022年に新型コロナウイルス対策を検証する政府の有識者会議が開かれたが、非常に時間が限られた中での中間的な検証でとどまっている。
一方で、このような「何となくよかったね」で終わるのを嫌い、データを用いて世の中の行動原理を探求するため、徹底的に検証しようと考えるのが経済学的なアプローチであり、「性」なのであろう。
布製マスク配布や病床確保などコロナ対策の財政支援について会計検査院がどのようにメスを入れたか、医療の有事対応について、あるいはコロナをきっかけとした働き方とウェルビーイング、雇用調整助成金やゼロゼロ融資についてなど多方面のアプローチからコロナ対策が検証される。
政府のコロナ対策の専門家会議メンバーを務めた大竹文雄氏は、医療専門家と経済専門家の対立の論点を整理し、そもそもの考え方の違いについて論考している。これこそ私がコロナ当初から引っかかっていた事柄である。
大竹氏は、経済学者は人が何かを選ぶ際に、代替的な選択肢を放棄するという機会費用を払っていることを考慮して意思決定を行なっていると述べる。この「トレードオフ」という言葉は医療者専門家からも頻繁に聞いていたものだ。だが、大竹氏はその指し示す内容が違うのだと論じる。
医療専門家は通常医療とコロナ医療の関係のトレードオフを考えるが、経済学では経済的損失や自殺、教育貧困などコロナ感染症以外の指標も重視すべきだと考える。何を重視するかは価値観の問題であり、医療専門家単独の価値観では決定できない。
ただし、大竹氏が論じるように、感染状況は毎日データが発表されていくのに対して、社会経済への影響はすぐにデータとして現れないため、エビデンスが出るタイミングが異なることを政策担当者も我々も理解すべきだろう。