アステイオン

インタビュー

税金が「何に使われたのか」という国民の声は大きくなっている...田中弥生・会計検査院長が掲げた「5つの目標」とは?

2024年12月18日(水)11時05分
田中弥生 + 土居丈朗(構成:髙橋涼太朗)

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このインタビューは2024年7月に会計検査院で行われた。クレジットのない写真はすべて河内彩・撮影

田中 4点ほど、挙げたいと思います。第一に、新型コロナ対策の教訓として、スピードとコストの問題が大きかったと感じています1人10万円支給された特別定額給付金の支出額は、決算で見ると12兆7700億円となり、その給付に実に1000億円程度のコストがかかったと言われています。

日本は紙ベースの作業が多く、給付に数カ月を要しましたが、アメリカではソーシャルセキュリティナンバーを活用して、わずか1週間ほどで全額配布されました。この給付スピードの違いがコストに大きく反映されています。

第二に、行政の体制問題です。先ほど述べた、委託や再委託といった行政の体制の問題も浮き彫りになりましたが、透明性の問題とも密接に関連しています。また、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の例でも、国と地方の間などでの情報伝達の齟齬が発生したなど、情報伝達の難しさも大きな課題でした。

第三に、事後検証の問題です。いわゆるゼロゼロ融資(日本政策金融公庫等が実施した新型コロナ特別貸付等)では早急な要件緩和の結果、後の管理が難しく、事後検証も難しくなるという問題がありました。

第四に、国民の皆様に決算に対して関心を持っていただくことです。新型コロナ対策にこれだけの巨額のお金が投じられたことで、「何に使われたのか」という国民からの声が大きかったと思います。

これまでは予算の議論が多かったのですが、今後は決算に対しても関心を持っていただきたい。実際にその機運が高まっていると思います。そのためにも事後検証が大切で、それができるための検討が必要だと思っています。

土居 今回の『アステイオン』の特集は「コロナ対策の事後検証」がテーマです。事後検証の難しさはまさにご指摘の通りです。日本では財政だけでなく、いろいろな面で事後検証は難しい。

もしかすると、日本の組織構造には「事後検証されることを前提に行動しよう」という発想があまりなく、むしろ「できれば事後検証されず、後から何となくよかったねと言われればいい」という風潮が官民問わず多く見受けられます。

欧米のように政権交代が起きれば、政権を失うと次の与党に事後検証されるという緊張感があるのですが、特に日本の場合は、政権交代がないので、行政の中での事後検証を求めるような牽制力が働きにくいこともあります。これは今後の日本の課題でもありますね。

田中 そうですね。今、会計検査院のホームページに新型コロナ対策の検査結果をまとめた「コロナ特設サイト(注5)」を設けています。

すべてはカバーできていませんが、我々がこの3年間、コロナ関係で調べてきた検査結果を一覧できるようにしています。これが1つのきっかけになり、さまざまなところで事後検証を行なっていただければと思います。

土居 今日は貴重なお話をうかがえました。本当にどうもありがとうございました。


【注】
(5) 新型コロナウイルス感染症対策関係経費等に関する検査結果(特設サイト)


田中弥生(Yayoi Tanaka)
1960年生まれ。2002年大阪大学大学院国際公共政策研究科で博士号取得。笹川平和財団研究員、国際協力銀行プロジェクト開発部参事役、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構教授などを経て、2019年9月に会計検査院検査官、2024年1月に会計検査院長に就任。専門は非営利組織論、評価論。著書に『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』(集英社)、『NPOと社会をつなぐ──NPOを変える評価とインターメディアリ』(東京大学出版会)など。

土居丈朗(Takero Doi)
慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員。1970 年生まれ。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、現職。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学(第2版)』 (日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)、『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)などがある。


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 『アステイオン』101号
 公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
 CCCメディアハウス[刊]
 

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