beeboys-shutterstock
布製マスク配布事業、持続化給付金事業、病床確保事業、巨額の予備費など、新型コロナ対策には財政支出が多額に投じられたが、その財政運営に会計検査院がメスを入れたことが話題になった。
その一端について、田中弥生・会計検査院長に本誌編集委員の土居丈朗・慶應義塾大学教授が聞いた。『アステイオン』101号の特集「コロナ禍を経済学で検証する」より「コロナ対策の『事後検証』――田中会計検査院長が語る」を3回に分けて転載。本編は第3回目。
※第2回:新型コロナ・病床に対する補助金「1日当たり最大43万6000円」は妥当だったのか?...診療報酬制度とのミスマッチから続く
土居 検査官としてコロナ禍の経験を経て、2024年1月に会計検査院長に就任され、会計検査院長としてめざす5つの目標を掲げられたとうかがいました。どのような意図や背景があったのでしょうか。
田中 会計検査院がその役割や機能をより効果的に発揮し、認知度を上げるためには改革がまず必要だと考え、その一環として目標を掲げました。理由は2つあります。
1つ目は国の財政監督機関としてのミッションを明確にし、社会に訴えるためです。会計検査院は1880年に設立され、来年145周年を迎えます。そのミッションはこれまで145年間変わっていませんが、直近で何をすべきかをリーダーとして示す必要があると考えました。
2つ目は、霞が関ではマネジメントの発想が希薄だと感じたことです。リーダーが目標を示し、職員には自分の仕事の意義を再認識してもらい、モチベーションを高めることが重要だと思いました。そのためにも、挙手制で全職員と対話しています。
土居 霞が関でマネジメントの発想が希薄というのは、その通りですね。行政機関の幹部として官僚がマネジメントを発揮し過ぎると、政治任用されている大臣のトップマネジメントとバッティングする。
かといって、大臣の言いなりになればよいかというと、それでうまくいく保証はない。難しいところですね。それで、会計検査院長の5つの目標とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
田中 1つ目は、我々の検査報告を決算だけでなく、予算の審議にも役立つようにすることです。要は予算・決算のPDCAサイクルを回すという意味です。
2つ目は、制度やその運営方法の改善に資するような検査報告を作ることです。3つ目は検査の質を向上させることです。
会計検査院は重箱の隅をつつくような細かい指摘をするとよく言われてきました。それを超えて、1点の検査から他地域や全国へと検査を広げ、制度改正に寄与するような提言を行ないたいと考えています。これを「点から線へ、線から面への検査」と我々は言っています。
そのためにはデータ分析や統計解析を活用し、AIなどを使ってリスクを察知する新しい手法も検討しています。こうした取り組みを支援するために、3年前に検査支援室(デジタル技術を活用して、新しい検査手法の開発、業務の合理化等を行なう部署)を設立しました。
土居 先ほどうかがった持続化給付金の申告状況の検査は、国税庁のデータを活用して成果を上げていることが一部で話題になりました。
田中 持続化給付金の収入は課税対象となります。中小企業庁と国税庁のデータからサンプリングして、課税対象となる収入として適切に申告されているかを会計検査院で確認しました。その結果、少なく見積もっても5%弱のケースで適切に申告されていないことが判明しました。
vol.101
毎年春・秋発行絶賛発売中
絶賛発売中