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心理学

他人に嫌われたくない日本人の「和の心」には2つの側面がある...なぜ「戦略的アップデート」が必要なのか

2024年03月27日(水)11時05分
橋本博文(大阪公立大学大学院文学研究科准教授)

和の輪を拡げる

前述した「和の心」のアップデートとは、和の輪を拡げるための心の性質を身につけることを意味する。

内輪づきあいの人間関係の維持に専念し、安心している限りは、和の輪の範囲は拡がらないばかりか、そうした人間関係の内部でまわりから嫌われないような心のあり方に縛られる生き方しかできなくなる。

そうした心のあり方をアップデートし、自ら主体的に和の輪を拡げられるように、内輪の外にいる他者一般に対する信頼や寛容性の水準を高めておく必要がある。

これは、そうしたほうが結果的に多くの機会を得られるという、いわば損得にかかわる話であると割り切って考えてもよい。

日本人の間では、「一度人生のレールから外れるとやり直しがきかない」、あるいは、「失敗するリスクの少ない無難な生き方を選ぶ方が賢明」といった考え方が根強くみられる。

また、失敗をした人物に対する周囲の評価も厳しい。そうした否定的な評価こそが、失敗した当人の這い上がりを難しくさせる。

そのため、社会全体としては、一度失敗したとしても「再挑戦」できる機会を可能な限り多く創出することが不可欠である。

そうした機会が多く創出されはじめれば、人々の志向も自ずと変化し、既存の和を維持することにのみ縛られず、他者一般をまずは信頼すること、そして、自らが選ばれるためのスキルの習得を通した新たな和の構築も促されていく。

既存の人間関係における和の輪を拡げ、他者一般に対する信頼や寛容性の水準を高めた方が戦略的に有利となる、より開かれた社会のあり方への転換はすでにはじまっている。

その意味において、他者から嫌われないような生き方のみに固執する適応価は失われつつある。内輪づきあいを超えた、他者一般との間での和を構築できるかが、日本社会を生きる多くの人々に求められるようになってきている。

『安心社会から信頼社会へ』で語られている他者一般に対する「信頼」は、これからますますその重要な役割を果たすはずだと筆者は考えている。


橋本博文(Hirofumi Hashimoto)
大阪公立大学大学院文学研究科准教授。専門は社会心理学、比較文化心理学。2007年、北海道大学文学部卒業。2012年、同大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、安田女子大学心理学部講師等を経て現職。2015年、アジア社会心理学会三隅賞を受賞。「なぜ日本の若い世代の人たちは他者に援助を求めようとしないのか?」という研究テーマで、サントリー文化財団2013年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。


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