山岸は、『安心社会から信頼社会へ』の中で、他者一般に対する信頼によって成り立つ、「より開かれた社会」への移行の重要さを説いていた。
四半世紀が立った今、押し寄せるグローバル化の潮流の中で、他者一般を信頼することの意味やメリットを考えることの重要さもますます増してきている。
しかし、日本人の心のあり方はいまだ安心社会に適応したままの状態にあり、多くの日本人は袋小路に迷い込んでいるように筆者には見える。そのため、社会のグローバル化の波にすぐに向き合えないとしても決して不思議ではない。
安心社会に身を置く限りは、既存の人間関係の枠を拡げられないという問題が際立つ。したがって、安心社会のみならず、他者一般との信頼関係も希求しあう信頼社会に適応するための生き方も志向し、そのための心のあり方を併せ持つメリットにも目を向ける必要がある。
そこで筆者は、信頼社会への移行に際して、日本人の「和の心」をアップデートすることが必須であると考えている。
一般に和の心というと、まわりの人たちの気持ちを慮(おもんぱか)る心、いわば「思いやる」心を指すと考えられている。しかし、そうした心とセットにして議論される和のあり方には、弁別すべき二つの側面がある。
一つは、まわりの人たちとの和を新たに構築するという側面であり、もう一つは、すでに存在している和を維持するという側面である。
安心社会に適応するための心の性質を身につけてきた日本人は、前者ではなく後者の意味での和の維持に長けているはずである。
実際に、筆者らが行った国際比較調査の結果によると、世界の人たちと比べて日本人に顕著に示されるのは、まわりの人たちから嫌われるのを避けようとしたり、意見対立を回避しようとしたりするといった和の維持を志向する心のあり方のみである。
このまわりの人たちから嫌われるのを避けようとする心のあり方は、他者一般に対する信頼の欠如や、内輪づきあいの外にいる他者一般に対する寛容性の低さなどとも関係していることがわかっている。
しかし、筆者が強調したいのは、まわりの人たちとの和を主体的・積極的につくろうとするといった和の構築にかかわる心の性質に文化差は示されていないという点である。
vol.101
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