阿南 北京は「中華」という概念で中国国内だけでなく、国際秩序を再編成しようとしています。しかし、その理想とされる乾隆帝期に戻るというイメージは、独り善がりで終わる可能性があります。
現実には「求心力」ではなく、「遠心力」が働いています。韓国だけでなく、ベトナム、ウイグル、チベット、香港、台湾も、北京の掲げるメッセージに引きつけられていない実態が、今回の特集から浮かび上がってきます。
この「中国とは付き合いきれない」という傾向は、民主主義諸国だけではなく、そうではない国も含めた周辺地域でも強まっていくと予想されます。そのことを本特集は示唆しています。
岡本 中華をどう考えるかには、大きく2つあります。
1つは中華に影響を受けながら、独自の路線を歩むケースです。その最たる例は日本です。ラーメンや中華料理を食べながらも、中華をほとんど誰も意識していない。しかし、中国に反感を持って罵るという今の日本人のスタンスです。
他方、中華をこそぎ落としつつも苦しむ世界もあります。その点を踏まえて、特集タイトルの中に「拡散」を入れました。野嶋剛先生には今回台湾についてご寄稿いただきましたが、特集を振り返ってみていかがでしょうか。
野嶋 今回の特集を読んでみると、どの国も共通して、拡散された中華をそれぞれが受け入れ、さらにそれを深化させている。各国の国内や地域の事情に従って相対化し、内在化させていくプロセスが見えました。
私は特に森万佑子先生の「朝鮮半島にとっての中華」と牧野元紀先生の「ベトナム――誇り高き南の中華」を印象深く読ませていただきました。
台湾や日本から見ると、韓国は習近平政権への距離がどんどん近づいているように見えます。しかし、そうではないらしいということが森先生の論考から分かりました。
vol.101
毎年春・秋発行絶賛発売中
絶賛発売中