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日本社会

日本の若者は「能力が高い」のに夢を持てないのはなぜか? 政治家だけが夢を語っている

2023年06月28日(水)10時50分
阿川尚之(慶應義塾大学名誉教授、著述家)

日本財団が日米英中韓印の6カ国で17歳から19歳の青年男女を対象に行った「18歳意識調査─国や社会に対する意識」(2022年実施)によれば、日本の若者のうち自国の将来が良くなると思う者の割合は、1位中国(96%)から5位韓国(34%)までの5カ国に大きく離されてわずか14%。10年後の日本の競争力強化を予測する割合、「自分には将来の夢がある」と考える割合も最低である。

13歳から29歳までの若者を対象にした内閣府による世論調査(2019年実施)の結果を見ても、「自分自身に満足している」、「将来外国へ留学したい」、「外国に住みたい」などの質問への回答は、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンを合わせた7カ国の中で、日本が最下位を占める。

だからと言って、今の若者がダメだとは思わない。大学で毎年学生とゼミや授業、さらにコンパなどで付き合ってきて、自分の知っている若者たちは個性に富み、自分の考えを持ち、それを論理的に表現できる点で、学園紛争に明け暮れていた青年期の私の世代より能力が高いと感じる。

それでも、国や自分自身について、夢を持てない、満足できない、海外に行きたいと思わないのはなぜだろう。

昨年秋に京都で日米協会の国際シンポジウムが開かれ、ウクライナ侵攻以後の日米関係や国際情勢について議論するパネル討論で発言の機会を得た。

私は若者の国防意識について、「ウクライナのようにわが国が侵略されたら、君たちは武器を持って戦うか」と2つの大学で尋ねたが、一人として戦うと答えた学生がいなかった、と紹介した。

すると傍聴していた数人の大学生から、「将来に夢のない国のために命をかけて戦う気にはなれない」、「現状に不満があるわけではない。でも、何かが大きく変わるとは思えない」、「大好きな京都の町を離れたくない、それでもやはり外国へ出ねばならないのだろうか」と、率直な発言があった。

日本の若者が国や自分の将来に夢を持てない一方で、絶えず夢を語っているのは、政治家と官僚ではないか。

岸田総理は今年1月の所信表明演説で、新しい資本主義の実現、日本経済の再生、資産所得の倍増、安心して子供を産み育てられる社会の創生など「若者が、未来に希望を持って生きられる社会」の夢を語った。これに対して、国民は歓迎するわけでも、否定するわけでもなく、妙に冷めている。

そもそも国民の夢を政府が定義し、実現すること自体、健全なのだろうか。

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