アステイオン

座談会

中露に挟まれたモンゴルの「アンダ」(戦略的パートナーシップ)とは──モンゴルから中華を見る[後編]

2023年06月07日(水)10時57分
小長谷有紀+岡本隆司+田所昌幸 構成:荻 恵里子(京都府立大学共同研究員)
モンゴル

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<遊牧社会から現代が学ぶべきところとは? モンゴル学者の小長谷有紀・国立民族学博物館名誉教授に聞く。『アステイオン』98号の特集座談会より>


遊牧は軍事、万里の長城はモンゴル人からすれば「造らせている」感覚──モンゴルから中華を見る[前編] から続く。

モンゴルがどのような国であり、なぜ中国とつながるのか。モンゴル学者の小長谷有紀・国立民族学博物館名誉教授に『アステイオン』編集委員の岡本隆司・京都府立大学教授と田所昌幸・国際大学特任教授が聞く。

◇ ◇ ◇

民族問題と階級問題

岡本 軍事的優位にあった遊牧民によって中央ユーラシアが世界を動かしていた時代から、化石燃料の時代になり、今は岸田総理の言う「普遍的価値」の世界で、つまり欧米的な国民国家がヘゲモニーを取っています。

その一方で、イスラム世界や内陸アジア、中央アジアといった遊牧社会をかなり持て余しています。その典型が「一つの中国」だと思うのですが、モンゴル社会や遊牧民の生活文化という視点からは、それがどのように見えるのでしょうか。

小長谷 モンゴル族も時代・地域ごとにさまざまに変容してきました。東アジア・北東アジアのモンゴルに関して言うと、「ロシア」「モンゴル国」「内モンゴル」と三国にまたがっています。

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モンゴル語をどれだけ維持できているかという母語維持率でみると、中国とロシアで暮らすモンゴル族のモンゴル語維持率は半分か、それ以下です。ですから私は中国で民族問題は大きな問題ではないと思っていました。

というのも、少数民族を全て足しても全人口の10%にも満たないからです。しかもモンゴル語維持率はモンゴル族自らが減らしているので、あえて言語政策で中国語を強制しなくとも、待っていたら自然に民族問題はなくなっていきます。このように、いじめる必要もないほどなのですが......。

一帯一路で西に向かうとムスリムの人口は非常に多くなり、また新疆の問題があるので、イスラム教に関しては掌握しなくてはならないというのはあったかもしれません。しかし、他の少数民族については別です。

岡本 背景にはどのような理由が考えられるでしょうか。

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