迎賓館赤坂離宮の1906年製エラール 出典:内閣府迎賓館HP
初めて古いピアノにふれたのは、滝乃川学園所蔵の「天使のピアノ」だったろうか。日本初の知的障害児施設。創設者夫人の石井筆子がお輿入れの時に持って来た楽器だという。
燭台がついたアップライトで、オーバーダンパーという特殊なメカニズム。いつもペダルを踏んでいるように響きがほわんほわんと糸を引く。
明治18年にドイツのデーリング商会が横浜で製造・販売した日本最古級のピアノらしい。正面のレリーフから「天使のピアノ」と呼ばれている。
父違いの兄が学園のお世話になっていたので、一度弾いてみてくださいと言われた。最初は、このピアノ、壊れている! と思った。タッチは不揃いだし、オーバーダンパーのために音がいつまでも残る。
しかし、少し練習するうちに、大正琴のような鄙びた音色に魅せられてしまった。その後、求められるままにくにたち芸小ホールや立教女学院のチャペル、紀尾井ホールのコンサートで弾き、2008年には滝乃川学園の聖三一礼拝堂でアルバム『天使のピアノ』のレコーディングをしている。
vol.100
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