その3年前、2005年にはタカギクラヴィア所有の1887年製ニューヨーク・スタインウェイでジャン=フィリップ・ラモーのクラヴサン曲をレコーディングしたこともある。
レコード会社が借りたホールは田んぼのど真ん中で、夜になるとカエルがゲコゲコうるさい。ホールは木製で、響きはよいのだが外気を通してしまう。収録中は除湿器を切っておかなければならないから、すぐに湿度が高くなる。
古いピアノはそうでなくても湿気に弱い。しばらく弾くうちに鍵盤が上がらなくなり、ラモー特有の細かい装飾音を入れにくくなる。休憩中に除湿器を入れても、録音を再開するとすぐに湿度が上がり、鍵盤に指が張り付いて大変だった。
しかし、不思議なもので、苦労した末に完成したアルバムは、私のCD史上でもベスト3にはいるできばえだったのだ(同じ楽器で2022年にもクープランをレコーディングしている)。
杉並区荻窪にある大田黒公園記念館のピアノでも2016年にレコーディングした。音楽評論の草分け、大田黒元雄旧蔵の1900年製ハンブルク・スタインウェイ。寄木細工の美しいピアノで、ニューヨークから部品を送っていた時代なので華やかな音がする。
vol.100
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