フランスのピアノ、エラールについては、3台とかかわっている。迎賓館赤坂離宮の1906年製エラールに出会ったのは2019年のことだ。
その年に修復され、迎賓館の一般公開にあたって、一般の方々に弾いていただいてはどうか、という案が浮上したらしい。内閣府に東大ピアノの会出身の友人がいて、古い楽器は弾き手や楽曲を選ぶと思い、私に相談してきた。
迎賓館のエラールは交差弦なのでフォルテピアノとは言えないが、現代のピアノに比べれば脆弱なので、あまり激しい曲や音の多い曲、重さをかけるような弾き方は合わない。古楽器の専門家とまでは言わないまでも、それなりの奏法を心得た弾き手のほうがよいでしょうとアドバイスした。
白地に美しい花模様を施したピアノは、1909年、迎賓館が東宮御所として建設された際、「羽衣の間」に置くために購入され、のちの香淳皇后が愛奏したという。アルフレッド・コルトーも1952年に皇居を訪れ、皇后のためにこのピアノを弾いている。
その修復されたピアノを2019年7月に私がお披露目コンサートで演奏した。以降、アドバイザーとして、若手演奏家によるコンサートをプロデュースしている。コロナ感染症拡大で休止していた時期もあるが、「羽衣の間」の美しい内装、すばらしい音響とあいまって人気の催しとなっている。
通常のモダン・ピアノは八八鍵だが、迎賓館のエラールは90鍵モデル。京都山科の森田ピアノ工房が修復し、長くびわ湖ホールに置かれていた1927年製エラールも同じモデルである。
私はこのピアノが修復された直後に、京都芸術センターで弾いている。2007年にびわ湖ホールのメインロビーに運ばれ、若いピアニストたちによるコンサートで聴衆を楽しませてきたが、修復の必要が生じ、2019年3月にさよならコンサートのシリーズが開催された。
森田ピアノ工房から最後に弾いてくださいと依頼があり、30分ほどのプログラムで出演したところ、すっかり惚れ込んでしまった。2022年に生誕百年を迎える恩師安川加壽子先生を記念したアルバムを制作することになり、前年の11月にびわ湖小ホールでレコーディングを行った。
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