大田黒が購入したのは1917年のことだが、その一年後、アメリカに渡る途中で日本に立ち寄ったプロコフィエフが大田黒邸を訪れ、このピアノを弾いている。収録曲のうち、ラヴェル『マ・メール・ロア』は実際にプロコフィエフが弾いた作品でもある。
楽器は運搬できないので記念館で収録。一般観覧が終了する17時からの作業になる。遮音が充分ではないので、草むらの虫の声などさまざまな「雑音」にしばしば中断される。
『マ・メール・ロア』の「親指太郎」には、鳥の鳴き声を模した装飾音が出てくるのだが、ちょうどこの部分を弾いていた時、本物の鳥の囀りとハモってしまい、スタッフ一同大笑い。
2018年のドビュッシー没後100年の折には、1925年製E型ベヒシュタインでレコーディングした。ドビュッシーの『前奏曲集第一巻』にふさわしい楽器を探していたところ、八王子のベヒシュタインの工房から良いピアノが入ったと知らせがはいった。
高音と中音、中低音、低音とそれぞれ異なった音質で、ドビュッシーの書法にぴったり。タッチは軽やかで、クラヴサンを模した細かいパッセージもきれいにはいる。
会場は、八王子からさほど遠くない相模湖交流センター。収録した2018年1月は大雪で、近くの運動場は雪で覆われ、なかに転々と足跡が記されている。『前奏曲集』の第六曲「雪の上の足跡」のイメージがふくらんだ。
vol.101
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