「昭和拾年 帝国浪曲技芸士銘鑑第三月改訂」発行元:立志社(国際日本文化研究センター所蔵)。この時期、複数の発行元が浪曲の番付を制作していた。立志社は代表的なもののひとつ。一番下の段に女流が列挙されている。撮影:筆者
市井のコレクターによって、集められ、救われることがある。芸術的とはみなされにくい大衆文化にまつわるモノが、前代の貴重な存在と認識されはじめたときに、その資料の収集・保存が急がれることがしばしばある。
その時に気づくのは、公的な機関が眼をむけなかったモノたちにとっては、コレクターの収集が潜在的なセーフティーネットとなってきたということだろう。
国際日本文化研究センターでは、「浪曲SPレコードデジタルアーカイブ」(図1)が事業として進められている。収められているのは、コレクター・森川司さんが所有していたSPレコードである。私がいったん譲り受けていたのだが、ご本人の了解を得て、日文研に寄贈した。
ひとつのジャンルに特化したSPレコードのデジタルアーカイブとしては、画期的な事業といってよく、ネット上で浪曲の歴史的な名調子にふれることができる(2022年3月時点で2215タイトル)。寄贈を契機として共同研究を組織し、ひとまずの成果を編むこともできた(『浪花節の生成と展開―語り芸の動態史にむけて』せりか書房、2020年)。
このアーカイブでは、日文研が所蔵する「関連資料」も公開されている。見立番付、ポスター、チラシといった紙媒体の資料である。SPレコードは演者の声にふれるきっかけを与えるが、「関連資料」は、演者・演目がどのように聴衆とつながったのかを知るきっかけを与えてくれる。
かつての浪曲雑誌などの定期刊行物もそうした資料のひとつと言えよう。もっとも1960年代以前のもので、図書館などで所蔵されているものは、ごく僅かしかない。
vol.101
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