有名どころは男女とも、おおむね両番付に掲載されているが、無名のレベルでは、様々な異同がある。中央とつながりつつも、離れ眺めて、独自の番付をつくろうとする本多の気概を感じ取れる。福岡から発信されていった『芸一報』や本多のことは、浪曲史のなかで積極的に書き留められてよいだろう。
福岡をはじめ九州にゆかりのある浪曲関係者は多い。例えば、筑後地方にかつて多くの浪曲師が集まっていたことが、坂田健一の調査から具体的にうかがえる(『筑後浪曲史概説』私家版、1992年)。
坂田は1933年に記された南筑後エリアの浪曲師名簿を紹介しているが、それを東京で発行された同時代の見立番付と対照させてみても、多くの演者は掲載されていない。見立番付や名簿の比較を繰り返すなかで、一枚の番付をはるかにはみ出した人数の演者が活動していたことを、おぼろげながら可視化できるだろう。
地域史のなかで考える。そして対照していく。つまり浪曲史を複数化し、そののちに、また編み直す。〝方法としての迂回〞は、整頓されたジャンル史の見え方を変えていく。地方興行や巡業の痕跡を探すなかで、大衆芸能の地域受容史というテーマがひらけてくるだろう。
その時、紙媒体はかけがえのない研究資源として存在感を発揮するはずだ。それゆえにやはり、「関連資料」のアーカイブは、浪曲史研究において、さらには大衆芸能史において、急務であり欠かせないのである。
真鍋昌賢(Masayoshi Manabe)
1969年大阪生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。モナシュ大学日本研究センター 来訪研究員、大阪大学文学研究科文化形態論日本学講座助教などを経て現職。専門はメディア文化論、口承文芸研究、民俗学。単著に『浪花節 流動する語り芸──演者と聴衆の近代』、編著に『浪花節の生成と展開──語り芸の動態史にむけて』(いずれもせりか書房)がある。
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