アステイオン

民俗学

庶民のコレクションが貴重な大衆文化のセーフティーネットに──浪曲史の編み直しに向けて

2023年01月04日(水)08時10分
真鍋昌賢(北九州市立大学文学部比較文化学科教授)

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図9 「昭和十年夏季新編浪曲真打人気番附」(『芸一報』1935年7月号、架蔵)。満足のいかない見立番付が多いなかで、紙幅拡張に伴い、一層の大衆化を目指して編んだのだという。「男女平等 公平無私」を謳っている。撮影:筆者

『芸一報』には、「新編浪曲真打人気番附」という付録がつけられたこともある(図9)。「見立番付」は、愛好者と浪界を結ぶ媒体のひとつだが、いわゆる客観的なランキングだとは言い切りにくい。むしろ編者の裁量・思惑がさりげなく発揮される主観を含んだ表象形式である。

とはいえ、これらを比較対照すれば、浪曲史を知るための様々なヒントを得られるかもしれない。「新編」では、男女が一括して序列化されている。浪曲では「女流」は別途カテゴライズされるのが常なので、これは珍しい編集方針だ。

幸い、日文研アーカイブで、東京で発行された同年版の見立番付を閲覧できるので、対照してみてもいい(図10)。当時の一般的な番付のひとつであり、「女流」カテゴリーを見つけることができる。


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図10 「昭和拾年 帝国浪曲技芸士銘鑑第三月改訂」発行元:立志社(国際日本文化研究センター所蔵)。この時期、複数の発行元が浪曲の番付を制作していた。立志社は代表的なもののひとつ。一番下の段に女流が列挙されている。撮影:筆者

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