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※第1回:値上げをすると売り上げが減る、でも利益は増えるカラクリとは?──「需要法則」からの接近(上)より続く
さて、話を需要法則そのものに戻そう。この法則は、どのような形で実際の経済分析に使われているのだろうか。過去に経済学を一度でも学んだ方であれば、「需要曲線」という名前の曲線を覚えているに違いない(図2)。価格をたて軸、数量をよこ軸にとった二次元の座標に描かれた、右下がりの曲線のことである。
このグラフは、与えられた価格に応じて、市場全体の需要量がどう変化するのかを表している。実は、この「需要曲線が右下がり」であることと需要法則は、全く同じ主張を別の形で表現しているに過ぎない。需要曲線は市場に関する経済分析を行う上で欠かせない概念であるため、その形を決める需要法則は、いわば市場分析の根幹をなす法則だと言えるだろう。
では、需要法則はいつでも正しい普遍的な法則なのだろうか。言い方を変えると、需要曲線は常に右下がりなのだろうか。答えは、例外が無いとは言えないものの「ほとんどいつでも正しい」と筆者は考える。
ところで、経済学のような社会科学では、自然科学と同じ基準を満たすような普遍的な法則が成立することはあり得ない。なぜなら、自然法則に従う物質や力などと違って、経済や社会における法則というのは、ときに気まぐれな人々の行動によって左右されるからだ。
彼らは究極的には、そのときの気分で自分勝手に、いかようにでも振る舞うことができる。どんなに当てはまりが良い社会の法則や経済の定理を発見したとしても、人々の行動を完全に予測ないしはコントロールすることはできないだろう。そのため、常に例外的な振る舞いは起こり得るのである。
需要法則は、この例外的な現象が極めて少ない、社会科学の中では非常に稀な法則である、という点をここでは強調しておきたい。と、前置きしたところで、次にこの需要法則の例外についてもしっかり触れておこう。
所得が増えると需要が減るような財を、経済学では下級財あるいは劣等財と呼ぶ(逆に、所得が増えると需要も増える財は正常財と呼ばれる)。下級財の中には、その財の価格が上昇しても他の財へと消費を切り替えにくいものもあるだろう。生活に欠かせない食料、特に穀物などがその典型例である。
こうした財については「価格を上げるとむしろ需要が増える」可能性があることが知られており、最初にこの可能性を指摘したイギリス人経済学者ロバート・ギッフェンの名前をとって、「ギッフェン財」と呼ばれている。このギッフェン財こそが、需要法則が当てはまらない例外なのである。
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