Bのような言説は、需要法則に対する誤解に基づいた間違った批判だと言えるだろう。以上から、次の教訓が得られる。
ひとつだけ注意点も述べておきたい。〈教訓3〉は、過去のデータから需要曲線について何も情報を得られない、ということまでは意味していない。需要曲線がほとんどシフトせず、代わりに価格が大きく変化するような環境で得られたデータからは、需要曲線の形状を推計することができるからだ。
たとえば、猛暑や豪雨などが原因で野菜が不作になると、通常は野菜の値段がじょじょに上がっていく。ここで需要曲線が大きくシフトするような要因がなければ、その期間に得られた価格と販売量のデータは、(ほぼ)同じ需要曲線上の異なる点を表していると解釈することができる。つまり、データから需要曲線の姿を導くことができるのだ。
〈教訓3〉は、需要曲線自体がシフトしやすい財や環境の場合には、データの解釈に十分に気を付けなければならない、という注意を喚起しているのである。
※第3回:チケットやゲーム機の高額転売は本当に悪いことなのか?──「需要法則」からの接近(下)に続く
安田洋祐(Yosuke Yasuda)
1980年生まれ。東京大学経済学部卒業。米国プリンストン大学で博士号取得。政策研究大学院大学助教授を経て、現職。専門はゲーム理論、マーケットデザイン、産業組織論。主な編著書に『学校選択制のデザイン──ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)、『改訂版 経済学で出る数字──高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)など。
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