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<経済学は、なぜ世間の常識とはかけ離れていると思われているのか? 中には、経済学の常識を修正すべき場合、そもそも経済学の分野とは思われていないものもある。経済学と世間の常識を4つのパターンから見る>
経済学には、世間の常識と全く異なっていることがある。『アステイオン』特集「経済学の常識、世間の常識」の7人の議論を読んでいると、経済学の常識と世間の常識が乖離する理由にはいくつかあることがわかる。
第1のタイプは、経済学の常識が直感的に理解しにくいので、世間では常識とはならないものである。
税金については、法人税を実質的に負担しているのは誰かという別所俊一郎の議論「法人税は『企業』が負担するものか?」も市場競争を前提に考える経済学の常識が世間の直感的理解とずれることから発生している。
このタイプの典型的なものとして、「比較優位」という考え方がある。営業もプログラミングも社内でトップクラスのIT企業の会社員Aさんがいた場合、Aさんは自分で営業して自分でプログラミングもした方が会社にとって望ましいように思える。これが世間の常識だろう。
しかし、経済学者ならAさんは、営業かプログラムかどちらか本人のなかで同じ時間働いたときの生産性が高い仕事に特化して、それ以外の仕事は別の人に任せた方がよいと考える。生産性の高さという絶対優位を基準にするのではなく、それぞれの人が自分の中で得意な仕事という比較優位を基準にして仕事を分担するのが、すべての人にとって望ましいと考える。
また、それは、国際貿易にも当てはまる。経済学では貿易自由化が多くの人を豊かにすると考えている。したがって、グローバル化に賛成するのが経済学の常識だ。しかし、世間の常識としては、貿易自由化によって、国内産業が競争に負けて仕事が失われるので、自由貿易の推進に反対することが多い。
これまで経済学では、貿易自由化によって国内産業の一部で仕事が失われても、比較優位にしたがって別の産業に特化することになるので、失業しても別の産業でよりよい仕事を見つけることができると考えてきた。
しかし、経済学の最近の研究によって、世間の常識が正しく、今までの経済学の常識を修正すべきだということも生じてきている。
実際、マサチューセッツ工科大学のデイビッド・オーター教授らの一連の研究は、輸入が急増した場合には、労働市場での調整にはかなりの時間がかかり、失業増、所得減少、結婚率の減少という社会経済的問題が引き起こされることを明らかにしている。
同様のことは、最低賃金の引き上げについてもいえる。従来の1990年代半ばまでの経済学の常識では、最低賃金の引き上げは、最低賃金以下の人たちを失業させ、運よく最低賃金で雇用された人と仕事を失った人の格差が広がるだけだ、というものだった。
この最低賃金についての経済学の常識の背景には、低賃金の労働はかなり競争的で、労働者は少しでも高い賃金の仕事があると転職する状況にあるという想定があった。
vol.101
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