ヤシャ・モンク
『民主主義を救え!』
(吉田徹訳、岩波書店、2019年)
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次にあげるのは、ヤシャ・モンクの『民主主義を救え!』(吉田徹訳、岩波書店)である。邦訳タイトルにもかかわらず(原題はThe People vs. Democracy)、著者は世界価値観調査などを踏まえ、特に若年層において民主主義に対する不信が高まっていることに警鐘を鳴らす。逆にいえば、20世紀後半において民主主義が安定していた方が珍しかったのであり、そこには特別な条件があった。
第一は、共有された価値や事実を作り出すことで、フェイクニュースを抑制してきたマスメディアの役割である。逆にいえば、現在、民主主義が不安定化しているのは、このようなマスメディアの優越という条件が、インターネットやソーシャル・ネットワーク・サービスの発展によって失われ、それまで周辺化されていた極論を口にする政治家や運動の影響力が増したことによる。
第二は、経済成長の結果、多くの人々が生活水準の向上を経験し、よりよい未来を期待することができたことである。経済成長の果実は社会保障による再配分の原資となり、将来への期待は、現在の不満を抑制する効果を持った。これに対し現在は、グローバル経済の発展により、先進国の労働者層を中心に、生活は苦しくなり、将来はさらに悪化するのではないかという不安が広がっている。
第三は民族的な同質性である。戦後、安定した民主主義国家の多くにおいて、単一の民族やエスニック集団が支配的地位を占めてきた。これに対し、現在はエスニックな多様性が増大している。外国からの移民や難民が増大するなか、これに反発する排外主義的な勢力も拡大している。民主主義にとって民族的同質性が不可欠な要素とは言えないが、今後、多様なエスニック集団の協調のために多くの努力がますます必要であることは間違いない。
現在、これらの条件が失われ、今後も当分、その状態に変化がないとすれば、民主主義が不安定化することは免れ得ないだろう。むしろそれを前提に、民主主義の再建を目指さなければならないのが現代の課題なのである。
日本の議論も見ておきたい。特に2020年以降、日本においても顕著な「民主主義本ブーム」が起きている。かくいうこの稿の筆者自身がその当事者の一人であり、『民主主義とは何か』(講談社現代新書)を刊行している。
宇野重規
『民主主義とは何か』
(講談社現代新書、2020年)
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vol.101
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